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2015年2月23日月曜日

『ジャーナリスト事件簿』 ~匿名の影~ ノルウェイ・サスペンス Norwegian Mystery Drama "MAMMON"


WOWOWで放送された海外ドラマ、ノルウェイ・サスペンス

『ジャーナリスト事件簿』 ~匿名の影~   "MAMMON"






原題は『MAMMON』
(悪、腐敗の根源としての)富、金、強欲、貪欲。
不正な富を表す言葉。


Sascha Schneider Der Mammon und sein Sklave.jpg
"Sascha Schneider Der Mammon und sein Sklave 金銭とその奴隷" by Sascha Schneider - Schmidt Kunstauktionen. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.




全6エピソードを熱心に観てしまいましたが、

①話が複雑で入り組んでいて全部理解できたか?否か?不安 
②ノルウェイ人を見慣れていないので、人物の見分けがつかないときもあり、???謎が増えた。

のですが、そんな中、主役の元経済部記者(現在はスポーツ部に所属)のペテル・ヴェロスのお顔は抜きんでて・・・ハンサムとはいえず、「この人が主役?」という疑問が最初のころは付きまとっていましたが、話が進むにつれて納得しました。
すごく見分けの付きやすいお顔なんです!
どんな中にいても、ペテルはペテル。わかりやすいです。



【人物紹介】
ペテル・ヴェロス(Peter)         ・・ノルウェイのアフテンアブセン新聞の元経済部記者
ダニエル・ヴェロス (Daniel)        ・・大手金融会社役員
エヴァ・ヴェロス(Eva)          ・・ダニエルの妻、会計士
アンドレアス・ヴェロス(Andreas)    ・・ダニエルの息子
トーレ・ヴェロス(Tore)                       ・・ダニエルとペテルの父、牧師
ヴィベケ(Vibeke)                                ・・犯罪捜査局の捜査官だったが、退職、広場恐怖症
オーゲ・ハウゼン(Age)                      ・・ダニエルの大学の同窓生、横領を暴かれる
ギスレー・エイエン(Gisle)                 ・・ダニエルの大学の同窓生、ペテロに警告を送る
ロアル・オストビー                    ・・ダニエルの大学の同窓生
トム・リード(Tom)                                  ・・億万長者
ヨン・ステーンスル(Stensrud)          ・・トム・リードの友人の裕福なビジネスマン
マティーセン (Mathiesen)                 ・・経済部のニュース・エディター、ペテルの友人であり上司
インゲル・マリエ(Inger Marie)         ・・経済部記者
経済犯罪局局長(Economic Crime Boss) ・・氏名不詳      



お話は原題『MAMMON』に象徴されるように、"不正な蓄財"、"強欲"にかられて罪を犯す人々にペテルたちが巻き込まれていくというストーリー。
ペテル・ヴェロスはノルウェイの新聞社、「アフテンアブセン」の経済部記者で、匿名の情報提供者から情報を受けとり、自らの兄である大手金融会社役員のダニエル・ヴェロスの2,300,000クローネの横領を暴いていた。
だがダニエルは「息子アンドレアスの面倒を頼む」とペテルに依頼し、ガレージでピストル自殺をしてしまう。
横領で刑務所に2年ほど入ることよりも、自殺を選んだ兄ダニエルにショックを受けるペテルだったが、さらなる調査の結果、ペテルの情報提供者の「ソフィア」とは兄自身であることがわかり大きな謎が残ることになる。
このときペテルは経済捜査局の捜査官ヴィベケと出会い、交際を始めるが3年で別れることに・・・。

5年後、経済部を離れていたペテルはオーゲ・ハウゼンの横領に関する暴露記事が準備されていることを知り、ハウゼンの身を案じる。
そんなときダニエルの弁護士からペテルとダニエルの妻であるエヴァ・ヴェロスあてにスーツケースが持ち込まれる。足ひれやシュノーケルなどのダイビング用品とともに、特定の時間に特定の場所に行くように指示があり、泳げもしないペテルが砕石場のため池(?)に潜って調査していると、なんとオーゲ・ハウゼンが車ごと飛び込んできた!
ペテルはため池に沈む車からオーゲ・ハウゼンを助け出したが、「アブラハム」と言い残してオーゲは二人の目の前でピストル自殺をはかり死んでしまう。

謎の言葉「アブラハム」
牧師である父トーレの教会にダニエルが寄付した『息子を犠牲にするアブラハム』の絵画とオーゲの最後の言葉から、2人の死は息子を犠牲にしない=息子を殺させないための自殺ではないかとペテルは推測する。

オーゲ・ハウゼンの記事を書くために経済部に戻ることを希望したペテルだったが、編集長に却下され、「解雇する」と言われてしまう。しかし、同僚のインゲル・マリエの得たオーゲ・ハウゼンの情報はオーゲに成りすました者から送信されていたことがわかり、さらに添付ファイルには「パパ」と叫ぶ小さな子供が火事に合い殺される場面の映像がUPされていた。

億万長者トム・リードの主催するチャリティ・パーティにエヴァと出席したペテルに匿名の電話がかかり、発信者を調べると、ギスレー・エイエンという男であることが判明したが、ギスレー・エイエンもペテルの目の前で列車に飛び込み自殺してしまい、ペテルは大きなショックを受ける。

経済犯罪局を退職していたヴィベケはペテルを助け、ダニエルの息子アンドレアスとともにダニエルの出身大学に捜査に向かう。自殺したダニエル、オーゲ、ギスレーたちは皆この経済大学の卒業生であり、なんらかの陰謀があることが判明するが、帰宅途中でアンドレアスが拉致され、ヴィベケはパニックに陥ってしまう。

一方、教会に寄付されたアブラハムの絵画の後ろに書き込まれたダニエルの言葉から、10月22日に子供とともに殺されたもう一人の犠牲者が浮かび上がってくる。
ロアル・オストビーという男性とその息子は、ウスタオセの山荘に滞在していた時に残酷に殺され、火事になった山荘はギスレーの会社名義で建て直されていた。
この山荘にアンドレアスが監禁されているのではないか?と推測し、ペテルとエヴァは雪深い現地に赴く。
だが、殺し屋たちに見つかり放火されて命からがら逃げ出すが、アンドレアスは見つからず、ロアル・オストビーと息子が殺された元の映像が発見され、ダニエルやオーゲ、ギスレーを含む大勢人間が陰謀に係わっていたことが確実となる。

ヴィベケのアパートに向かったペテルは、殺し屋たちの罠にかかり、ヴィベケを殺されてペテル自身が殺人者であるかのような証拠をねつ造され指名手配されてしまうが、上司であり友人であるマティーセンと億万長者のトム・リードの助けを借り、ベルケルの経済大学の教授からインサイダー情報を使った不正な蓄財を長年続けているグループの情報を得る。

殺し屋にひき逃げされたエヴァから情報を入れたメモリースティックを得たペテルは、トム・リードを信用して彼に手渡すのだが、メモリースティックは敵の手に渡ってしまいトム・リードも殺される。

殺し屋たちから追われ続けるペテルは、ヴィベケの犯罪捜査局時代の元上司の局長に助けられてトム・リードの仲間のビジネスマン、ヨン・ステーンスルのもとへ向かう。
信頼できると思われたヨン・ステーンスルだったが、彼も経済大学の同窓生であり、インサイダー取引で不正な取引をしていたグループの主要な人物であることがわかり、危機に陥る。

「ヴェロス家のものには苦しめられたよ」というステーンスル。
ステーンスルに銃撃されたペテルは、陰謀に係わったダニエルがロアル・オストビーとその息子が残酷に殺された結果、グループから足を洗うために横領を仕組んで自殺したことを聞かされる。ヴィベケを殺したのは「私の意思ではない」と語ったステーンスルが振り向いた瞬間、ペテルの携帯を追跡していた犯罪捜査局の局長が、ステーンスルの屋敷に乗り込んできてステーンスルに銃を向ける。
同時に現れた殺し屋たちも、トム・リードから奪ったメモリースティックを入手して確認した映像から、自分たちの依頼主(ステーンスルたち)が子供殺しであることを知り、あっさりとステーンスルの頭を打ち抜いて殺してしまう。
デンマークからやってきた殺し屋は、「彼はわたしが最も軽蔑を抱く、倫理に反した人間だ」「もう我慢ならん、リストだ。残り9人の名前が載っている」と、驚くペテロにリストを渡してアンドレアスの無事を告げ、「子供は殺さない、決して」「あの男(ステーンスル)も、もう手は出せない」とさっさと立ち去っていく。「こんなひどい国、早く離れましょう」と言いながら・・・。

90年代半ばからインサイダー取引を行っていたグループが無事に逮捕され、一見落着かと思われたが、その5か月後。

気候のよいカリブ海のグレナダ島で休暇を過ごしていた経済犯罪局の局長(ヴィベケの元上司)のもとに、ペドロとマティーセンが訪れる。
捜査を重ねた結果、消えてしまった大金を持っているのは彼女であり、ロアル・オストビーの内部告発をもみ消し、インサイダー取引を行っていたグループの仲間であることが解明したのだ。
そして、ペテロの恋人だったヴィベケが経済犯罪局での捜査で真相にせまるたびに、罠をしかけてヴィベケの不安をあおり、精神的に不安定な状況に追い込んだのも彼女であると告げて、ペテロの長い捜査は終了する。



とっても入り組んでいて複雑、かつ楽しめるミステリー・サスペンス。
レッドへリングとして、マティーセン(味方だが、時々怪しそうな電話をかけていた)、インゲル・マリエ(味方のはずだったが、ペテルの居場所を警察に密告、怪しい電話もかけていた)、トム・リード(すごく怪しそうな億万長者で黒幕に見える)らが使われていて惑わされます。



ここで重要なのは

✿ペテロの兄のダニエルが、牧師である父トーレから集中して虐待を受けていたこと。子供時代からの非常に残忍な虐待により、心が歪み、道徳心が失われていったことが母親がのこした日記から読み取れます。

✿「決して子供は傷付けない」は次々に標的である人々を殺していったデンマークからやって来た殺し屋の『倫理』であり、ダニエルやオーゲ・ハウゼン、ギスレー・エイエンらが自殺することを選んだ原因。何度もドラマの中で取り上げられている"アブラハム"が子供のイサクを犠牲にしようとした事柄と絡んでくる大事な要素です。


そして残る疑問が

"ダニエルとオーゲ・ハウゼンは自殺の場所、時間をあらかじめ計画してスーツケースのなかにヒントを仕組んだの?" 答えは出てこなかったと思います。

"なぜダニエルとペテルは全く容姿が似ていないの?ダニエルは父親似で、ペテルは母親似という設定?" 面白いほど似ていない兄弟です・・・。

"経済犯罪局の局長は、氏名不詳?" 名前が最後までわかりませんでしたよ~


でも、本当に面白くて複雑なドラマです。



"Norwegian Flag" Photo by Lemsipmatt https://www.flickr.com/photos/lemsipmatt/



2015年2月8日日曜日

限りなくストイック ! 『猟犬』 ~JAKTHUDENE ノルウェー・ミステリー 

北欧ノルウェー・ミステリー  『猟犬』  ヨルン・リーエル・ホルスト作 






翻訳ミステリー界で大流行している北欧ミステリー。
実は昔からマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーの"マルティン・ベック" シリーズ、ヘニング・マンケルの"マルティン・ベック" シリーズなどが手堅く愛されてきました。最近では、スティーグ・ラーソン、ユッシ・エズラ・オールスンも大人気です。



"ガラスの鍵賞" を受賞している『猟犬』。
この賞を受賞している=「読み応えがあり、絶対におもしろい」のお墨付きを得ているといっても過言ではありません。


舞台はノルウェー、オスロから南西100kmほど離れた人口23,000人程度の小さな街ラルヴィク。
主人公のヴィリアム・ヴィスティング警部は警察に勤務して31年のヴェテランであり、落ち着いた堅実な生活を送っています。
ある日、17年前にヴィスティングが捜査の指揮をとり解決した「セシリア」事件でDNA鑑定の偽造があったという告発が起こされます。
当時の捜査責任者として、最も疑わしい人物とみなされたヴィスティングは副署長のヴェッティから即時停職処分を勧告され、警察官の身分を停止されることになってしまいます。

一方、もう一人の主人公といえるタブロイド新聞の事件記者であるヴィスティングの娘のリーネは、逆境に陥った父のことを心配しながら、オスロ湾を挟んで対岸に位置する土地で起きた殺人事件を取材していました。

リーネの本音は自分が追っている殺人事件が大きな扱いになれば、父の責任を追求する記事を新聞の第一面から締め出せるかもしれない・・・というものでしたが、取材の過程で被害者の飼い犬のマイクロチップから自宅の住所を探り出して被害者宅を訪れた際に家宅侵入犯に遭遇してしまい、自身も事件に巻き込まれていきます。

そして当初はまったく異なるふたつの事件と思われていたものが次第に絡み合い、大きなひとつの事件となっていきます。

17年前の「セシリア」事件でDNAの証拠偽造はあったのか?
偽造があったとしたら、その犯人は誰なのか?姪が18年前に行方不明になった元警官のロベック?同僚のハンメル警部
「セシリア」事件で有罪となったハーグルンは無罪なのか?偽造された証拠の有無に関係なく有罪か?
リーネが追いかけている殺人事件の被害者は「セシリア」事件の真犯人なのか?

が焦点となっていきます。




ヴィスティング警部は取材されて鋭い追求を受ける側、娘のリーネは追求する側です
Crackdown Kjelsas Photo by Casper Kongstein  https://www.flickr.com/photos/kongstein/





「静」の人ヴィスティング警部は、持ち帰った捜査資料を丁寧に読み返しながら (特に昔の関係者や被害者家族に接することもなく)、何かおかしな点を資料からじっくりと探っていきます。
ときには隣家の少年のサッカーボールを拝借してちょっとしたトリックを使って (身分停止中なので、本来なら入ることが許されない)警察署に忍び込み、「セシリア」事件に関連した過去の事件の捜査ファイルを持ち出したりするのですが、このシーンの描写が非常に詳細です。
「どうやって取材しているんだろう?」と疑問に思っていたのですが、実は作者のヨルン・リーエル・ホルスト自身が2013年まで現役の警察官だったということで、納得しました。

そしてリーネ達 "タブロイド新聞" 記者が事件の証拠や情報をつかむテクニックも非常に面白く、警察の記者会見でテーブルに置かれていた警察の発表資料を望遠レンズで撮影して詳細な情報をゲットしたり、監視カメラのデジタルの映像を写真に撮ってちゃっかり持ち帰ったりします。
また、「これから法を犯すであろう」犯人を徹底的に尾行するリーネ達のテクニックもプロフェッショナルでとってもシステマティック!
これらも現役の警察官の実体験から書かれているのでしょう。



冤罪もの(ヴィスティング警部に対する)のミステリーですが、ヴィスティング警部の静かで落ち着いた心の動きとリーネの存在感や活躍が素晴らしく、「何で自分がこんな目に・・・」なんていう鬱々した部分は少なく、ヴィスティング警部とリーネともども私生活での波乱もありますが、最小限度に抑えられており、ミステリー自体を楽しむことができる作品です。


とにかく「限りなくストイック」で「プロフェッショナル」なヴィスティング警部とリーネです。




Norwegian Police
Crackdown Kjelsas Photo by  Casper Kongstein https://www.flickr.com/photos/kongstein/



Alesund  オーレスンの街 人口45000人 ラルヴィクはもっと小さい街です       
Alesund Photo by Florian Seiffert  https://www.flickr.com/photos/seiffert/