北欧ノルウェー・ミステリー 『猟犬』 ヨルン・リーエル・ホルスト作
翻訳ミステリー界で大流行している北欧ミステリー。
実は昔からマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーの"マルティン・ベック" シリーズ、ヘニング・マンケルの"マルティン・ベック" シリーズなどが手堅く愛されてきました。最近では、スティーグ・ラーソン、ユッシ・エズラ・オールスンも大人気です。
"ガラスの鍵賞" を受賞している『猟犬』。
この賞を受賞している=「読み応えがあり、絶対におもしろい」のお墨付きを得ているといっても過言ではありません。
舞台はノルウェー、オスロから南西100kmほど離れた人口23,000人程度の小さな街ラルヴィク。
主人公のヴィリアム・ヴィスティング警部は警察に勤務して31年のヴェテランであり、落ち着いた堅実な生活を送っています。
ある日、17年前にヴィスティングが捜査の指揮をとり解決した「セシリア」事件でDNA鑑定の偽造があったという告発が起こされます。
当時の捜査責任者として、最も疑わしい人物とみなされたヴィスティングは副署長のヴェッティから即時停職処分を勧告され、警察官の身分を停止されることになってしまいます。
一方、もう一人の主人公といえるタブロイド新聞の事件記者であるヴィスティングの娘のリーネは、逆境に陥った父のことを心配しながら、オスロ湾を挟んで対岸に位置する土地で起きた殺人事件を取材していました。
リーネの本音は自分が追っている殺人事件が大きな扱いになれば、父の責任を追求する記事を新聞の第一面から締め出せるかもしれない・・・というものでしたが、取材の過程で被害者の飼い犬のマイクロチップから自宅の住所を探り出して被害者宅を訪れた際に家宅侵入犯に遭遇してしまい、自身も事件に巻き込まれていきます。
そして当初はまったく異なるふたつの事件と思われていたものが次第に絡み合い、大きなひとつの事件となっていきます。
17年前の「セシリア」事件でDNAの証拠偽造はあったのか?
偽造があったとしたら、その犯人は誰なのか?姪が18年前に行方不明になった元警官のロベック?同僚のハンメル警部?
「セシリア」事件で有罪となったハーグルンは無罪なのか?偽造された証拠の有無に関係なく有罪か?
リーネが追いかけている殺人事件の被害者は「セシリア」事件の真犯人なのか?
が焦点となっていきます。
ヴィスティング警部は取材されて鋭い追求を受ける側、娘のリーネは追求する側です
Crackdown Kjelsas Photo by Casper Kongstein https://www.flickr.com/photos/kongstein/ |
「静」の人ヴィスティング警部は、持ち帰った捜査資料を丁寧に読み返しながら (特に昔の関係者や被害者家族に接することもなく)、何かおかしな点を資料からじっくりと探っていきます。
ときには隣家の少年のサッカーボールを拝借してちょっとしたトリックを使って (身分停止中なので、本来なら入ることが許されない)警察署に忍び込み、「セシリア」事件に関連した過去の事件の捜査ファイルを持ち出したりするのですが、このシーンの描写が非常に詳細です。
「どうやって取材しているんだろう?」と疑問に思っていたのですが、実は作者のヨルン・リーエル・ホルスト自身が2013年まで現役の警察官だったということで、納得しました。
そしてリーネ達 "タブロイド新聞" 記者が事件の証拠や情報をつかむテクニックも非常に面白く、警察の記者会見でテーブルに置かれていた警察の発表資料を望遠レンズで撮影して詳細な情報をゲットしたり、監視カメラのデジタルの映像を写真に撮ってちゃっかり持ち帰ったりします。
また、「これから法を犯すであろう」犯人を徹底的に尾行するリーネ達のテクニックもプロフェッショナルでとってもシステマティック!
これらも現役の警察官の実体験から書かれているのでしょう。
冤罪もの(ヴィスティング警部に対する)のミステリーですが、ヴィスティング警部の静かで落ち着いた心の動きとリーネの存在感や活躍が素晴らしく、「何で自分がこんな目に・・・」なんていう鬱々した部分は少なく、ヴィスティング警部とリーネともども私生活での波乱もありますが、最小限度に抑えられており、ミステリー自体を楽しむことができる作品です。
とにかく「限りなくストイック」で「プロフェッショナル」なヴィスティング警部とリーネです。
Norwegian Police
Crackdown Kjelsas Photo by Casper Kongstein https://www.flickr.com/photos/kongstein/ |
Alesund オーレスンの街 人口45000人 ラルヴィクはもっと小さい街です
Alesund Photo by Florian Seiffert https://www.flickr.com/photos/seiffert/ |