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2015年4月8日水曜日

『輪廻の蛇』 ~All You Zombies 誰がこの作品を本当に理解できる?

  ~All You Zombies  お前たち、みなゾンビだ! 








30ページにも満たないロバート・ハインラインのSF短編です。
SFは時々チャレンジしていますが、さすがにハインラインは敷居が高い!
捻りに捻ったタイム・トラベル・パラドックスです。

物語は1970年のニューヨークのとあるバー(POP酒場)でバーテンダーである航時局員"Time Travel Corpsの一員" "私生児の母"という25歳の男と出会う場面から始まります。

⇒ここですでに「?」です。「なぜ、私生児の母が25歳の男なの?




物語を時系列で整理します。


【1945年 オハイオ州、クリーブランド】
孤児院の玄関に、缶詰の空き箱に入れられた女の赤ん坊が捨てられる。ジェーンと名付けられる。

【1963年 オハイオ州、クリーブランド
ジェーンは流れ者の男と出会い、関係を持つ。妊娠したが、男はジェーンを捨てて去ってしまう。

【1964年 オハイオ州、クリーブランド】
ジェーンは女の子を出産する。その際、医師はジェーンが半陰陽(inter-sex) であることに気づく。
「女性の性器は妊娠できる程度に成熟していたが、二度と役に立たなくなっていたので男性として発育するようにしたよ」と言い、ジェーンは男として生きることになる。
生まれた女の子は、4週間後に見知らぬ中年の男によってさらわれてしまう。

何度か手術を受けて完全に男として生きることになったジェーンは、自称"私生児の母"、告白小説を書いて生計をたてていく。

【1970年 ニューヨーク】
"私生児の母"である男、ジェーンはPOP酒場でバーテンダーと出会う。
自分を捨てた流れ者の男を恨んでいるジェーン。
バーテンダーは、その流れ者を見つけて「復讐させてやる」と約束し、その代償に「変化や冒険の多い、給料がよいかたい仕事」をやってみないかと誘う。
ジェーンは同意し、バーテンダーはジェーンの上に航時機(Time Machine)のネットを広げる。⇒(Time Travel Corps に入隊することになります)





一方、航時局員"Time Traveler" の動きです・・・。


【1963年 オハイオ州、クリーブランド】
"私生児の母"をタイムマシンで連れてくる。100ドル札を与えて、「流れ者を捕まえろ」と諭す。1963年にそのまま置き去りにする。

【1963年 オハイオ州、クリーブランド】
18才のジェーンとデートしていた"私生児の母"である男を連れ戻す。
この時点で、"私生児の母"は、「ジェーン」と「ジェーンを誘惑して捨てた流れ者」が自分自身=同一人物であることに気づく。

【1964年 オハイオ州、クリーブランド】
病院に侵入し、女の赤ん坊を連れ去り、孤児院に置き去りにする。

【1970年 ニューヨーク ⇒ 1985年 ロッキー山脈、地下司令部支所】
ジェーンを航時局 "Time travel Corps" に入隊させる。

【1993年 ロッキー山脈、地下司令部支所】
航時局員は、腹の帝王切開の傷跡をみるが、すでに毛むくじゃらになっていて探してみなければわからなくなっている。

⇒ここで、航時局員"Time Traveler"である男、ジェーンの赤ん坊を誘拐して孤児院に置き去りにした男=ジェーンであることが判明します。



★★★結論★★

ジェーンの母、父、航時局員"Time Traveler"も全てジェーン自身。
ジェーンの家系図は全てジェーンです。


★★★???★★

⑴ ジェーンはどこから来たのか?or 始まったのか?
  (ジェーンは、「わたしは自分がどこから来たのか知っている」といっていますが…)
⑵ 過去から来たジェーンと現在のジェーン(航時局員、バーテンダー)は同時期に共に存在できるのか?
  (タイム・トラベル・パラドックスとして、ごく平凡な疑問です…)


ハインラインは、考えうる限りのタイム・トラベル・パラドックスをこの短編に注ぎ込んでいるということです。


航時局員"Time Traveler"がはめている指輪、「己が尾を呑む蛇」は輪廻を象徴しています。




とても詳しくこのパラドックスをアニメーション化しているVideo








イーサン・ホーク主演で『輪廻の蛇』が映画化されています。
タイトルは『プリデスティネーション ~Predestination』(運命、宿命の意)。
映画は"爆弾魔、フィズル・ボマー"の事件も絡んでくるそうです。

2015年3月24日火曜日

映画『イミテーション・ゲーム』と『エニグマ』、ミステリー『針の眼』


ベネデイクト・カンバーバッチ主演の話題作、『イミテーション・ゲーム』 ~Imitation Game


Photo by 『イミテーション・ゲーム』 face book





ドイツの電気機械式暗号機、「エニグマ」の暗号を解読せよ!が主軸のストーリーではなく、あくまでも数学者アラン・チューリングの人となり、内面を描いている映画です。

アラン・チューリングはケンブリッジ大学の数学者で、ロンドン北部のブレッチリーパーク「政府暗号センター」(Government code and Cypher school)にて「bombe」と呼ばれる暗号解読機を制作、総当たり攻撃によりエニグマの暗号解読に成功します。

実際は、暗号解読には開戦前にポーランド軍の暗号解読機関から受け取った旧式のエニグマのレプリカや資料(解読方法も含む)をもとに仕組みを解析したそうですが、その辺には(詳しくなりすぎるためなのか?)触れられていません。

解読もチューリング博士だけでなく、他に多くの優秀な数学者たちが関わっていますが、そちらも省略(あくまでも主役はチューリング博士です)。


暗号解読の詳細を語る映画ではなく、人間、アラン・チューリングの描写が主軸となっており、もちろん社会性のない天才をやらせたらベネデイクト・カンバーバッチは抜きん出ているのですが、如何せん、(『シャーロック』のファンなので)社会性のない天才=シャーロックの役柄にどうしても結びつけてしまい、困ります。

シャーロックほどには傲慢な部分はないのですが、誰にも理解しがたい天才の鋭い部分を強調したらシャーロックになってしまう・・・。ので、やりにくいところもあったのではという印象を受けました。


そして、下記のような数々の特異なエピソードを持つアラン・チューリングの変人ぶりや優秀さをもっと強烈に表現してほしかった気がします。


チューリングは長距離走が得意だったらしく、会議に出席するために、ブレッチリーパークからロンドンまでの64kmの距離を走ったことがある。(⇒ランニングしているシーンは挿入されていたが、何かを忘れるためにがむしゃらに走っているように見えました)
花粉症のため、自転車に乗る際にはガスマスクを装着していた。(⇒当時のロンドンでは、防毒マスクをしゃれたバッグにいれて持ち歩いている女性たちがいたそうなので、マスクの所持はごく普通のことのようです)
マグカップの盗難を防ぐため、ラジエーターに鎖で繋いでいた。


ホモセクシャルであることは、彼の死に係わる重要な要素ですが、その辺りはパブリックスクール時代のエピソードで切なく描かれています。少年時代のアラン・チューリング役の演技は素晴らしく、ベネデイクト・カンバーバッチ以上に"アラン・チューリング"を感じました。



Photo by Karsten Sperling http://spiff.de/photo


世間の評価はかなり高く、映画評などでも☆☆☆☆☆が5個並んでいます。




そして2003年の映画 『エニグマ』 ~ENIGMA


もっとエニグマを楽しみたい方にお薦めなのが、ケイト・ウインスレット出演、マシュー・マクファディンが海軍の情報将校役で出演している『エニグマ』です。







恋人のクレアにふられて精神を病んだケンブリッジ大学の数学者トム・ジェリコがブレッチリーパークの仕事に復帰する。
しかし、クレアは謎の失踪をとげ、彼女の部屋から受信された暗号文を発見したジェリコは、彼女がドイツのスパイなのではないかと疑う。
クレアのルームメイトだったヘスター(ケイト・ウインスレット)の協力を得て、ジェリコはクレアの行方と彼女の真実の姿を探り出そうとする。

同時にジェリコは北大西洋上の味方の船団をUボートの攻撃から救うため、「シャーク」というエニグマ暗号機をより発展させた暗号機の暗号を解読する任務を与えられる。
気象暗号をもとに前回は解読したが、2日前にドイツは気象暗号を変更してしまっていたことから、ブレッチリーパーク内にドイツのスパイがいると推測された。
この暗号を解読するためには、船団の船が発見され、ドイツが無線でその位置や速度を通信し、その通信の暗号受信してをひとつずつ解読していくしかなく、連合軍側の船の犠牲を意味することでもあった。

一方、クレアが隠していた暗号をエニグマ機で解読すると、ポーランド人の名前が連なった名簿であることが判明し、映画の冒頭にソ連のカティンの森で発見された4000体の死体の山へと謎はつながっていく・・・。



暗号コードの謎、美しい女性の失踪の謎を織り交ぜたエンターテイメント性の高い、サスペンス映画です。ブレッチリーパークの雰囲気はこちらの映画の方がわかりやすいかも。

ケイト・ウインスレットはメガネ女子、マシュー・マクファディンは隻眼の情報将校でカッコいい!


2003年頃のマシュー・マクファディン




制作に係わったミック・ジャガーとケイト・ウインスレット







スパイ小説 『針の眼』 ~ EYE OF THE NEEDLE   ケン・フォレット著



『イミテーション・ゲーム』、『エニグマ』を観たら、更に第二次世界大戦当時の雰囲気を存分に味わえる、連合軍のノルマンディー上陸作戦に絡むスパイ・サスペンスもの、『針の眼』を思い出しました。










ケン・フォレットの出世作である『針の眼』はドナルド・サザーランド主演で映画にもなっています。
スリーパー・エージェントとしてイギリスに潜んでいたヒトラーの信望も厚いドイツのスパイであるヘンリーが、連合国軍のフランス、カレーへの上陸作戦が欺瞞であることを見破り、本国へ情報を届けるためにたどり着いた北海の孤島で、車椅子生活を送る夫と心が通わなくなっていたルーシーという魅力的な女性に出会い、運命が大きく変転してしまう・・・というストーリー。

スパイものは複雑に入り組んでいる作品が多いのですが、この『針の眼』は読みやすく、スパイものが好きならお薦めです!


ルーシーの若き夫、自動車事故で肢体不自由となったケンブリッジ大学出身の元英国空軍のパイロット、デービッドは睫毛が長くキレイな目もとをしており、男装の女性に見紛うばかり・・・とあるので、エディ・レッドメインEddie Redmayne をイメージしてしまいます。



エディ・レッドメイン 2014年12月  "女性に見紛うばかり・・・"

2015年2月8日日曜日

限りなくストイック ! 『猟犬』 ~JAKTHUDENE ノルウェー・ミステリー 

北欧ノルウェー・ミステリー  『猟犬』  ヨルン・リーエル・ホルスト作 






翻訳ミステリー界で大流行している北欧ミステリー。
実は昔からマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーの"マルティン・ベック" シリーズ、ヘニング・マンケルの"マルティン・ベック" シリーズなどが手堅く愛されてきました。最近では、スティーグ・ラーソン、ユッシ・エズラ・オールスンも大人気です。



"ガラスの鍵賞" を受賞している『猟犬』。
この賞を受賞している=「読み応えがあり、絶対におもしろい」のお墨付きを得ているといっても過言ではありません。


舞台はノルウェー、オスロから南西100kmほど離れた人口23,000人程度の小さな街ラルヴィク。
主人公のヴィリアム・ヴィスティング警部は警察に勤務して31年のヴェテランであり、落ち着いた堅実な生活を送っています。
ある日、17年前にヴィスティングが捜査の指揮をとり解決した「セシリア」事件でDNA鑑定の偽造があったという告発が起こされます。
当時の捜査責任者として、最も疑わしい人物とみなされたヴィスティングは副署長のヴェッティから即時停職処分を勧告され、警察官の身分を停止されることになってしまいます。

一方、もう一人の主人公といえるタブロイド新聞の事件記者であるヴィスティングの娘のリーネは、逆境に陥った父のことを心配しながら、オスロ湾を挟んで対岸に位置する土地で起きた殺人事件を取材していました。

リーネの本音は自分が追っている殺人事件が大きな扱いになれば、父の責任を追求する記事を新聞の第一面から締め出せるかもしれない・・・というものでしたが、取材の過程で被害者の飼い犬のマイクロチップから自宅の住所を探り出して被害者宅を訪れた際に家宅侵入犯に遭遇してしまい、自身も事件に巻き込まれていきます。

そして当初はまったく異なるふたつの事件と思われていたものが次第に絡み合い、大きなひとつの事件となっていきます。

17年前の「セシリア」事件でDNAの証拠偽造はあったのか?
偽造があったとしたら、その犯人は誰なのか?姪が18年前に行方不明になった元警官のロベック?同僚のハンメル警部
「セシリア」事件で有罪となったハーグルンは無罪なのか?偽造された証拠の有無に関係なく有罪か?
リーネが追いかけている殺人事件の被害者は「セシリア」事件の真犯人なのか?

が焦点となっていきます。




ヴィスティング警部は取材されて鋭い追求を受ける側、娘のリーネは追求する側です
Crackdown Kjelsas Photo by Casper Kongstein  https://www.flickr.com/photos/kongstein/





「静」の人ヴィスティング警部は、持ち帰った捜査資料を丁寧に読み返しながら (特に昔の関係者や被害者家族に接することもなく)、何かおかしな点を資料からじっくりと探っていきます。
ときには隣家の少年のサッカーボールを拝借してちょっとしたトリックを使って (身分停止中なので、本来なら入ることが許されない)警察署に忍び込み、「セシリア」事件に関連した過去の事件の捜査ファイルを持ち出したりするのですが、このシーンの描写が非常に詳細です。
「どうやって取材しているんだろう?」と疑問に思っていたのですが、実は作者のヨルン・リーエル・ホルスト自身が2013年まで現役の警察官だったということで、納得しました。

そしてリーネ達 "タブロイド新聞" 記者が事件の証拠や情報をつかむテクニックも非常に面白く、警察の記者会見でテーブルに置かれていた警察の発表資料を望遠レンズで撮影して詳細な情報をゲットしたり、監視カメラのデジタルの映像を写真に撮ってちゃっかり持ち帰ったりします。
また、「これから法を犯すであろう」犯人を徹底的に尾行するリーネ達のテクニックもプロフェッショナルでとってもシステマティック!
これらも現役の警察官の実体験から書かれているのでしょう。



冤罪もの(ヴィスティング警部に対する)のミステリーですが、ヴィスティング警部の静かで落ち着いた心の動きとリーネの存在感や活躍が素晴らしく、「何で自分がこんな目に・・・」なんていう鬱々した部分は少なく、ヴィスティング警部とリーネともども私生活での波乱もありますが、最小限度に抑えられており、ミステリー自体を楽しむことができる作品です。


とにかく「限りなくストイック」で「プロフェッショナル」なヴィスティング警部とリーネです。




Norwegian Police
Crackdown Kjelsas Photo by  Casper Kongstein https://www.flickr.com/photos/kongstein/



Alesund  オーレスンの街 人口45000人 ラルヴィクはもっと小さい街です       
Alesund Photo by Florian Seiffert  https://www.flickr.com/photos/seiffert/



2015年1月25日日曜日

『強襲』 ~GAMBLE  新・競馬シリーズを応援します!


Horse Racing photo by Paul https://www.flickr.com/photos/vegaseddie/




日本で"競馬" といったら、競馬新聞片手にオジサン連中が一喜一憂しているギャンブル…というイメージしか湧かないのですが、UKでは違います。確かにギャンブルですが、もっとスポーツに近いもの。

ディック・フランシスの"競馬シリーズ" ミステリーは、私にとってシャーロック・ホームズやアガサ・クリスティを読み終えた後にたどり着いた最初の海外ミステリー。

コナン・ドイルやクリスティはミステリーの教科書的存在なので、その先のステップをなぜディック・フランシスに踏み出したのかは「?」なんですが(たぶん凄く流行っていたのだと思います)、『大穴』『興奮』『利き腕』などなど、夢中になって読んでいました。

けれどもディック・フランシスの高齢化に伴い、物語の勢いがなくなっていき、最近まではご無沙汰していました。フランシスの息子さんとの共著が出版されているのは知っていたのですが、過去の作品の良さを知っているからこそ、手が出ませんでした。

そして2012年にディック・フランシスが亡くなり、(R.I.P.)、その後に次男のフェリックス・フランシスが出した"新・競馬シリーズ"、『強襲』 ~GAMBLE です。










本屋で見かけて、訳者の後書きに「本書が売れてくれれば、この"新・競馬シリーズ"が続けて翻訳されることもあり得るだろう」と書かれていたので、応援の意味を込めて購入しました。
・・・「翻訳ミステリーを取り巻く状況は厳しいので・・・」とも書かれてあり、そういえば最近海外ミステリーの棚が狭くなっているので、海外ミステリーファンとしてはちょっぴり危機感を感じます・・・

内容はまさにディック・フランシス風をそのまま踏襲した文体で、主人公はストイックな元競馬騎手であるファイナンシャル・アドバイザーのニコラス・フォクストン
グランドナショナル観戦中の彼の真横で同僚が射殺される。
フォクストンはこの同僚のインターネット・ギャンブルの借金返済に遺言執行者として頭を悩ませつつ、顧客の陸軍大佐から投資先のブルガリア土地開発の詐欺に関する相談を持ち込まれて調査していくうちに、さまざまな事件に巻き込まれていき、恋人や母親とともに暗殺者に命を狙われてしまう・・・というストーリーです。

同棲中の恋人の心変わりを疑ったり、年上の魅力的な調教師の女性から誘惑されたりとロマンスの方面でも頑張っています。

これはパスティーシュではなく、フランシス家の「ファミリー・ビジネス」。
なので、どこも変える必要はないのですが、どこまでもストイックに押しまくる主人公だけでなく、例えば個性豊かな女性警察官、検察官、検視医等々・・・を登場させればもっとひねりが加わっていいかもしれません。
最近のミステリー・ドラマでは強烈な個性の女性刑事が活躍しています。
『Closer』『VERA』『第一容疑者』『New Tricks』。
フランシスの物語の中では、女性はあくまでも守護される立場のみなので、そこがちょっぴり物足りないかな・・・と思います。

でも、「一文も読み落とせない」ほどではありませんが、この先どうなるのかが気になって読みすすめていくことが出来る本でした。


フェリックス・フランシス、頑張ってください!



Over Turn Race Horse Photo by Paul https://www.flickr.com/photos/vegaseddie/

2015年1月11日日曜日

『禁忌』 フェルディナント・フォン・シーラッハ ~"TABU" Ferudinanndo von Schirach


フェルディナント・フォン・シーラッハの新刊、『禁忌』 ~"TABU"











問答無用ですぐに手にとり、購入するのがフェルディナント・フォン・シーラッハ。
そしてこの『禁忌』は、「法廷劇」や「謎解き」だけではなく完全に"文学"な作品です。
静かに語られていく主人公のゼバスティアン・フォン・エッシュブルクの半生が物語の半分を占め、後半にガラリと雰囲気を変えエッシュブルクが殺人罪で起訴され、裁判へと持ち込まれていく過程が描かれています。



エッシュブルクは落ちぶれた旧家の出身であり、プロの芸術的な写真家として活躍するかなり風変りな男性。
万物に人が知覚する以上の色彩を認識し、全てを人と違った目線でとらえています。
子供のころ父親が猟銃で自殺し、住んでいた古い屋敷を母親は売り払ってしまいます。エッシュブルク自身は寄宿学校で暮らしてきたので、完全に確立された自分自身の世界を持ち、再婚して別に暮らしている母親とは疎遠な生活をおくっています。

ある時、若い女性の声で助けを求める緊急電話が入り、捜査の結果、彼女は車のトランクに閉じ込められて殺害されたのだと断定され、エッシュブルクが状況証拠により逮捕されます。

ここで問題なのが「被害者の不在」。
被害者の死体が見つかっていないのに、殺人が起こったと断定できるのか?
です。

事件の弁護は有名弁護士のビーグラーに任されますが、ビーグラーが謎解きをするわけではありません。どちらかというと、本人のビーグラーも認めているように"使い走り"をさせられています。

エッシュブルクは「有罪」か「無罪」かが争点なのですが、このお話は有罪や無罪という観点からは全く離れ、『芸術』を語っていると言えるのではないでしょうか?

そしてエッシュブルクの作品が"インスタレーション ~Installation art" (展示空間全体を使った3次元的表現。空間全体が作品) という言葉で表現されていますが、一言でいうと、この事件全体が世間全体を使ったインスタレーション。
ミステリーではなく、芸術表現なのです。


シーラッハの描く人物は、誰も彼も際立っていて、風変りな一面を持っていたり、規則正しくて忍耐強かったり、何かにのめり込んでいたりと様々です。
人間はそのままの、有りのままの自分でいい。そんな気がします。






Bokeh in Red Photo by Stanly Zimney https://www.flickr.com/photos/stanzim/



"うらを見せおもてを見せて散るもみぢ"
という日本の僧侶、良寛(1758-1831) が死の床で遺した句を「わたしにとって、とても重要な句です」とシーラッハは"日本の読者のみなさんへ"という挨拶のなかで紹介しています。

ひらひらと表も裏も見せて散っていく"もみじ"は死にゆく良寛自身。
自分の裏も表も何もかも隠さずに見せた相手は、介抱してくれていた貞心尼(40才年下です)だそうです。(何もかも見せられてしまうと、疲れてしまう気もしますが。)

こうして、もしかして日本人以上に日本の文化を理解し、取り入れてくれているシーラッハですが、今回の『禁忌』のなかでも、日本のサムライがかつて「自分はもう死んでいる」という言葉とともに起床するのが日課だったという引用があります。
今よりももっと『死』が日常であった時の覚悟です。

2014年12月30日火曜日

『死のドレスを花婿に』『ニコラ・ル・フロック』 ~Nicolas Le Floch 他フランスミステリー ★




最近、北欧ミステリー"Nordic Noir" が大流行りなんですが、フランスミステリーも"French Noir"と言えるのではないでしょうか。


圧倒的にダークな側面を見て、「フランスってこんな国だったんだ・・・」とフランス革命とベルサイユ宮殿、レジスタンス運動ぐらいしか知識のない人間には衝撃的なミステリーの世界が広がっていきます。


【 前回紹介した 『その女アレックス』  ピエール・ルメートル著 


"このミステリーがすごい!2015年版 海外編" でも堂々の第1位。









これは文句なく、圧倒的に他の作品を上回っていて点数のつけようがありません。
時間をおいて読み返してみると、前回はストーリーに圧倒されて脳内から抜け落ちてしまっていた細かい部分に心が動きます。
特に予審判事のヴィダールカミーユ警部とそりが合わず、読者としても反感を感じつつ読んでいたのですが、最後の最後で「真実はいったい誰が定義できるのか」、「大事なのは正義ですよ」とさらりと言い放ちます。この軽さがかえってヴィダール判事の"信念の硬さ"を感じさせて感動します。
もちろん、人間の複雑さと深みを一番体現して見せているのはアルマンなのですが。


『女警部ジュリー・レスコー』に出演していたモタ役のアレクシス・デソー
やっぱりアルマンのイメージはこの人です☆彡








【 2009年に出版されていた同じくピエール・ルメートル著『死のドレスを花婿に』 








これはルメートルの2作目の作品で、いわば画家の習作のようなもの。
「追い詰められた女性が、逆転劇を演じる」のがモチーフとなっているのがわかります。
同じモチーフを用いて、ドンドン書いてもらってもいいと思うのですが、『その女アレックス』のあとに読むとなんだか少し物足りないかもしれません。

お話は夫や姑、シッター先の子供などが次々に死んでいき、殺人犯として手配される主人公のソフィーと、ソフィーを追う謎の男フランツ、ソフィーを心配する父親のパトリックの三者の間でほぼ展開していきます。
フランツのパートでは、ソフィーの過去の行動をフランツ側からなぞっていくことになるので、新鮮味にかけてしまうのが困りますし、ソフィーの視点から見れば復讐を遂げて"一件落着"なのですが、「ん?殺された人達の家族は真犯人を知らなくていいの?正義は?」という疑問が生じるラストです。
警察の捜査からの視点が入っていれば、より複雑になって面白くなったのではないかと思いますが、そうなると『その女アレックス』と同じような構成になってしまうのかな?と。




ジャン=フランソワ・パロ著『ニコラ・ル・フロック』~Nicolas Le Flochシリーズ 】


フランス国営TVでドラマ化されている、18世紀のフランスを舞台にした王国高等警察の警視が主人公のミステリー。
「ブラン・マントー通りの謎」
「鉛を呑まされた男」
「ロワイヤル通りの悪魔憑き」の3作。








18世紀のフランスの華やかな部分だけでなく影の部分もしっかり織り込まれている、抑えた筆致のとても緻密なミステリー小説です。内容は濃厚でダーク、時代考証もしっかりしており、ミステリー好きの方にはお薦めです。

特に魅力的なのが、主人公のニコラ・ル・フロックが侯爵であり警視(捜査官)でもあるという設定。これだけで、想像力(妄想)をかきたてられてしまいます。Amazon Japanのレビューも☆5を付けている人が多いようです。

原作者のジャン=フランソワ・パロは外交官でもあるそうなので、様々な経験が作品に生かされているのでしょうか。



一方ドラマでは、原作を読んだだけでは想像できない部分が120%補われます。
服装や貴族のお屋敷とその内装、宮殿、パリの街並み。そして、ルイ15世のお化粧!サルティンヌ警察総監もカツラの収集に余念がなく、当時の貴族や紳士たちがお洒落に精を出す様子が活き活きと描かれているのです。
もちろんヨーロッパのドラマは裸のシーンも隠すところなく堂々と出していますので、時々目のやり場に困ることもありますが、小説よりドラマのほうがコミカルな場面を多く盛り込んでおり、よりエンターテイメント性の高いものとなっています。















Season 5  episode10   "小麦粉と陰謀"~Blood in the Flour      馬上の二コラが美しいです








『タルタロスの審問官』 他  フランク・ティリエ著



フランク・ティリエはかなりダークな側面がある、濃厚なノワール・ミステリー。

フランスって、エスプリばかりじゃない・・・と教えてくれるのがフランク・ティリエ。
『その女アレックス』の中の殺人が残酷過ぎるという意見があるそうですが、そういう人はフランク・ティリエは読めないかもしれません。
残酷な殺し方がたくさん出てくる上に、主人公はこれでもかとトコトン痛めつけられるので、好みは分かれそうです。でも、本の表紙と裏表紙のあらすじを見ただけで"内容と傾向"はわかるので大丈夫!



パリ警視庁警視シャルコの妻シュザンヌが誘拐され6か月が過ぎる頃、パリ郊外で若き未亡人の惨殺された死体が発見される。ロープで緊縛され、皮膚をフックにかけられて眼球をくりぬかれていたのだ。
シャルコは犯人から残酷な殺しを克明に記録したメールを受け取る。中世に異端審問官だった殺人鬼ミカエル神父の再来と名乗る「赤い天使」との戦慄する戦いが幕を上げる。












ティリエは辟易するほど、残忍な殺人事件を連発してきます。読む前に心の準備が必要なぐらいです。たぶん好き嫌いがはっきりと分かれる作家なのではないでしょうか。
とはいえ、ドライでダークなミステリーに浸りたいときにはお薦めです。(最近はTVのスリラーの脚本も書いているそうです。)



この他にも『倒錯の罠 女精神科医ヴェラ』 Virginie Brac著、ノワールなサイコ・サスペンスながらユーモアもあるフランス・ミステリーなど多々あります。
フランスにはダークな香りが漂うミステリーが一杯です。


2014年12月23日火曜日

『今日から地球人』 ~THE HUMANS ヴォナドリア星人による報告書



❝人間など作り話にすぎないと信じている皆さん。彼らは実際に存在する。❞


『今日から地球人』 マット・ヘイグ著   ~THE HUMANS      by Matt Haig 



"EARTH" Photo by Beth Scupham https://www.flickr.com/photos/bethscupham/




わたしはその男ではなかった。アンドルー・マーティン教授ケンブリッジ大学の43歳の数学教授でもない。夫でも父親でもない。
もちろん、地球が実際に存在することは『戦う阿呆たち  ~水の惑星7081の人間たちとの時間』という名高い旅行記を摂取していたので知っていた。

全ては、アンドルー・マーティン教授が「リーマン予想」(←ご存じのとおり、数学における最も重要な未解決問題である)を証明してしまったことから始まったのである。
この難問を解いた結果、人類は誰にも想像出来ないほど進歩するだろう。
だが、われわれヴォナドリア星人はこの危機をアンドルー・マーティン教授の暗殺およびその関係者の暗殺で解決すると決定し、わたしを地球に送り込んだ。人間のような暴力的で強欲な生き物に高度な科学技術を与えて宇宙の平和を乱されては困るからである。



"NHKスペシャル魔性の難問~リーマン予想・天才たちの戦い"  Photo by fuba recoder https://www.flickr.com/photos/fuba_recorder/


しかしながら、首尾よくアンドルー・マーティン教授を抹殺して(抹殺したのはわたしではない)、彼と入れ替わりはしたものの、地球人の習慣や生活は簡単になじめるものではなく、衣服を身に着けなければならないことを知る前に素っ裸でコーパス・クリスティ・カレッジを歩きまわり、もちろんYou Tubeにアップされ、息子だという15歳のガリヴァーの立場をますます悪化させて治安紊乱を犯した結果、病院に放りこまれてしまった。



"Corpus Christi College" Photo by Duncan https://www.flickr.com/photos/duncanh1/




病院に面会にきた妻であるはずのイゾベル・マーティンは、まるでわたしを912,673の立方根(97)であるかのように見る。もちろんわたしもその立方根らしく美しく振る舞おうとした。

ところがである。
「リーマン予想」を証明したことを報告したメールの送付先、ケンブリッジ大学で数学のルーカス教授職にあるダニエル・ラッセルを始末したわたしは、悪夢にうなされた。
そのわたしを気遣うイゾベル(夫婦仲はとっくに壊れているらしい)、学校生活に行き詰って自殺を試みるガリヴァーに、自然となにかしらの感情が芽生えてきたのを報告したい。

その結果、予想もしなかったが、わたしは自分のギフト(触れるだけで人や動物を癒せる、または殺すなど)を手放して、地球人として暮らしていくことを選んだのである。
イゾベルやガリヴァー、犬のニュートンとこの地球で暮らすことを選んだのだ。




"Trisan" Photo by Five Acre Geographic https://www.flickr.com/photos/fiveacregeographic/




けれども当然ながら、ヴォナドリア星人、地球外生命体の星主たちはわれわれを放っといてくれなかった。
イゾベルとガリヴァーを抹殺すべく、またしても暗殺者を送り込んできたのだ。彼らは「リーマン予想」がアンドルー・マーティン教授によって解明されたことなど、全く知らないのに・・・。

イゾベルとガリヴァーを護ることはできたが、結局はヴォナドリア星人であることを2人に告白することとなり、家を出ていくこととなってしまった。
アメリカに渡り、スタンフォード大学で教鞭をとり、わたしは人間であることを学んだ。
酔っ払い、孤独になり、音楽を聴き、夜中に泣いた。
詩もたくさん読んだ。

そして、ケンブリッジに戻った。



地球からヴォナドリア星までの距離


ケンブリッジの家にあるグレープフルーツが太陽だとしたら、地球は葡萄一粒。
ヴォナドリアはニュージーランドに置いたオレンジ。



"Fruity" Photo by Cybergate9 https://www.flickr.com/photos/cybergate9/




ちなみに、人間のコンピューター・ネットワークのあらゆるセキュリティシステムが素数に基づいているため、ハッキングするのはごく簡単である。
ガリヴァーのコンピューターに侵入し、Facebookでガリヴァーをいじめた奴らに仕返しをしたこともここに報告しておきたい。

2014年12月1日月曜日

大人の童話 『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』  THE EXTRAORDINARY JOURNEY OF THE FAKIR ・・・









『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅 ロマン・プエルトラス作            


『THE EXTRAORDINARY JOURNEY OF THE FAKIR WHO REMAINED STUCK IN AN IKEA WARDROBE』 by Romain Puertolas




文字通り、タイトルに物語の行方がすべて込められている作品です。


主人公はインドからイケアの針ベッド(残念ながら、針ベッドがどういうものなのか未だにサッパリわかりません…)を求めて(なぜなら、インドの法律のおかげでイケアはまだインド国内で店舗を持っていないため)、フランス、花の都パリに信者を騙して飛行機代を捻出してやってきたサドゥー


訳者の注意書きより  日本語訳ではサドゥー(ヒンドゥー行者)とされていますが、原書のフランス語ではファキール(fakir)とされていて、ファキールとは、
本来はアッラー神に帰依するムスリム苦行者を意味する言葉なのに、本書の主人公は仏陀やシヴァ神に祈りを捧げる・・・
ような宗教的にはハチャメチャな主人公なので、サドゥーという呼称に変更したそうです。


サドゥー(行者)の名前はアジャタシャトルー(通称アジャ)。
アジャタシャトルーという名前は、聞きようによっては〈赤毛の猫を買え〉〈穴あきパンツなら山ほど持っている〉などと聞こえるらしい変幻自在の名前です。フランス語がわかると、もっと愉しいでしょう

そんな彼がなけなしの偽造100ユーロ(裏が白紙)で、ロマのタクシー運転手ギュスターブを騙してタクシーでパリのイケアに到着したことから物語は始まります。




フィンランド版 
アジャが持っていたイケアの鉛筆と紙製メジャー
Photo by Romein Puertolas Facebook


100ユーロ騙されて怒り狂うタクシー運転手のことなど知らぬまま、巨大なイケアに吸い込まれていったアジャタシャトルーは、針ベッドの予約を済ませ、素敵なパリジェンヌのマリーとの出会いを経て、その晩はそのままイケアで過ごすことに決めたのですが、人の話し声が聞こえたため慌てて隠れたタンスごとイギリスに輸送されてしまいます。タンス=ワードローブなので、ナルニア国への入口のワードローブを思い浮かべると正解です。




大型トラックにタンスごと積み込まれ、偶然トラックの中にいたスーダン人の密航者イサームに救出されてホッとしたのも束の間、すぐにイギリスのUKBA(英国国境局)に発見されてスーダン人たちがやって来たスペインのバルセロナへと送られてしまいます。




アジャが辿り着いてしまった英仏海峡トンネルから数分のフォクストーン
英国側出口
Channel Tunnel Terminal.jpg
"Channel Tunnel Terminal" by Stephen Dawson -
 Copied from the English Wikipedia. Licensed under CC BY-SA 2.0 via Wikimedia Commons.



バルセロナ到着後、第1ターミナルの荷物受取場を横切っていたアジャと遭遇したのは、例年のバカンスを楽しもうとスペイン旅行にやって来たギュスターブ、あの怒り狂っているタクシー運転手です。
必死で逃げるアジャは、とっさに他人の手荷物であるルイ・ヴィトンのトランクに忍び込みます。





Huge Louis Vuitton Bags   Photo by Conny Liegl
https://www.flickr.com/photos/moonsoleil/















ところがそのトランクはフランスを代表する有名な女優ソフィー・ルソー(✗ソフィー・マルソーではありません!)の物だったため、アジャはトランクに潜んだままイタリアへ向かうことになります。


こちらはソフィー・マルソー





幸いにも空調が効いた貨物室の中、トランクからはい出たアジャは突然作家になることを決意。頭に浮かんできた物語を、着ていたシャツに書き込んでいき、そうこうしているうちに飛行機は無事にイタリアのローマに着陸します。
ソフィー・モルソーと彼女の滞在するホテルの部屋で出会ったアジャは、これまでの顛末をありのままに語ります。ソフィーは驚愕しながらも、アジャの存在を受け入れてホテルの部屋を提供してくれ、マネージャーのエルヴェの紹介でアジャの作品を出版してくれる出版社までみつかりました!
そしてアジャは、アドバンスとして10万ユーロの現金を受けとったのでした。



Money_500_EURO_162873_480×360
Photo by Emilian Robert Vicol
https://www.flickr.com/photos/free-stock/







しかし、好事魔多しです。
作家に転じたアジャの前に現れたのは、怒れるタクシー運転手ギュスターブの手先のローマの理髪師。襲いかかってきた理髪師からなんとか逃げ出したアジャは、公園で気球に乗り込み、もちろん気球はアジャだけを乗せて空高く舞い上がってしまいました。








風の吹くままに流されたアジャは、危険な国リビアに向かう船に未確認浮遊物体として回収され、
口先三寸で船長をだまして15000ユーロでトリポリ港で下船することに成功します。
そんなアジャと再会したのはスーダン人のイサーム。
英国入国がかなわず、なぜかリビアに流されて来ていたのです。
イサームに身の上話とこれまでの顛末を語ったアジャは、イサームの村の人々のために40000ユーロをプレゼントし、恐縮しながらも受け取ったイサームは故郷のスーダンに帰国できることになりました!




トリポリの空港  戦闘で外観にダメージを受けています




イケアで出会ったマリーに再会するために、奇跡的にパリに舞い戻ってきたアジャ。
喜び勇んで駆けつけるマリーは、あの怒れるタクシー運転手のギュスターブのタクシーに乗車し、ついにマリーとついでにギュスターブとの再会を果たしたアジャなのでした。




こんなに移動しました!





ヨーロッパを縦横無尽に横断したアジャは、シャツに書いた原稿を全面的に書き直し、無事に出版を果たしてマリーと結ばれます。作品を書き直したアジャの思うことは、結末はHAPPY ENDでなければならないということ。希望を感じさせる物語にすることでした。
きっとこの作者のロマン・プエルトラスの想いもアジャと同じでしょう。
ロマン・プエルトラスの経歴は、作曲家、語学教師、客室乗務員、DJ、マジシャン、航空管制官を経て、国境警察本部の警察官の警部補に落ち着いたそうです(現在は休職中)。通勤電車内でスマホにインプットするという方法で、こんなに軽妙洒脱な物語を書き上げています。

気軽に読める愉しい物語ですが、不法移民を間近に見ている作者ならではの視点が随所に盛り込まれています。"何もかも持つことのできる国"、車、家、野菜、肉、水を簡単に得ることのできる国へ、何も持つことのできない国からやって来る密航者の物語でもあるのです。




Paris   Photo by Wllhellm Lappe https://www.flickr.com/photos/wlappe/



Paris HDR2    Photo by DAVID S.M. https://www.flickr.com/photos/dsmoreno/





作者のロマン・プエルトラス
Photo by Romain Puertolas Facebook
https://www.facebook.com/romainpuertolasofficial?fref=photo