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2014年12月30日火曜日

『死のドレスを花婿に』『ニコラ・ル・フロック』 ~Nicolas Le Floch 他フランスミステリー ★




最近、北欧ミステリー"Nordic Noir" が大流行りなんですが、フランスミステリーも"French Noir"と言えるのではないでしょうか。


圧倒的にダークな側面を見て、「フランスってこんな国だったんだ・・・」とフランス革命とベルサイユ宮殿、レジスタンス運動ぐらいしか知識のない人間には衝撃的なミステリーの世界が広がっていきます。


【 前回紹介した 『その女アレックス』  ピエール・ルメートル著 


"このミステリーがすごい!2015年版 海外編" でも堂々の第1位。









これは文句なく、圧倒的に他の作品を上回っていて点数のつけようがありません。
時間をおいて読み返してみると、前回はストーリーに圧倒されて脳内から抜け落ちてしまっていた細かい部分に心が動きます。
特に予審判事のヴィダールカミーユ警部とそりが合わず、読者としても反感を感じつつ読んでいたのですが、最後の最後で「真実はいったい誰が定義できるのか」、「大事なのは正義ですよ」とさらりと言い放ちます。この軽さがかえってヴィダール判事の"信念の硬さ"を感じさせて感動します。
もちろん、人間の複雑さと深みを一番体現して見せているのはアルマンなのですが。


『女警部ジュリー・レスコー』に出演していたモタ役のアレクシス・デソー
やっぱりアルマンのイメージはこの人です☆彡








【 2009年に出版されていた同じくピエール・ルメートル著『死のドレスを花婿に』 








これはルメートルの2作目の作品で、いわば画家の習作のようなもの。
「追い詰められた女性が、逆転劇を演じる」のがモチーフとなっているのがわかります。
同じモチーフを用いて、ドンドン書いてもらってもいいと思うのですが、『その女アレックス』のあとに読むとなんだか少し物足りないかもしれません。

お話は夫や姑、シッター先の子供などが次々に死んでいき、殺人犯として手配される主人公のソフィーと、ソフィーを追う謎の男フランツ、ソフィーを心配する父親のパトリックの三者の間でほぼ展開していきます。
フランツのパートでは、ソフィーの過去の行動をフランツ側からなぞっていくことになるので、新鮮味にかけてしまうのが困りますし、ソフィーの視点から見れば復讐を遂げて"一件落着"なのですが、「ん?殺された人達の家族は真犯人を知らなくていいの?正義は?」という疑問が生じるラストです。
警察の捜査からの視点が入っていれば、より複雑になって面白くなったのではないかと思いますが、そうなると『その女アレックス』と同じような構成になってしまうのかな?と。




ジャン=フランソワ・パロ著『ニコラ・ル・フロック』~Nicolas Le Flochシリーズ 】


フランス国営TVでドラマ化されている、18世紀のフランスを舞台にした王国高等警察の警視が主人公のミステリー。
「ブラン・マントー通りの謎」
「鉛を呑まされた男」
「ロワイヤル通りの悪魔憑き」の3作。








18世紀のフランスの華やかな部分だけでなく影の部分もしっかり織り込まれている、抑えた筆致のとても緻密なミステリー小説です。内容は濃厚でダーク、時代考証もしっかりしており、ミステリー好きの方にはお薦めです。

特に魅力的なのが、主人公のニコラ・ル・フロックが侯爵であり警視(捜査官)でもあるという設定。これだけで、想像力(妄想)をかきたてられてしまいます。Amazon Japanのレビューも☆5を付けている人が多いようです。

原作者のジャン=フランソワ・パロは外交官でもあるそうなので、様々な経験が作品に生かされているのでしょうか。



一方ドラマでは、原作を読んだだけでは想像できない部分が120%補われます。
服装や貴族のお屋敷とその内装、宮殿、パリの街並み。そして、ルイ15世のお化粧!サルティンヌ警察総監もカツラの収集に余念がなく、当時の貴族や紳士たちがお洒落に精を出す様子が活き活きと描かれているのです。
もちろんヨーロッパのドラマは裸のシーンも隠すところなく堂々と出していますので、時々目のやり場に困ることもありますが、小説よりドラマのほうがコミカルな場面を多く盛り込んでおり、よりエンターテイメント性の高いものとなっています。















Season 5  episode10   "小麦粉と陰謀"~Blood in the Flour      馬上の二コラが美しいです








『タルタロスの審問官』 他  フランク・ティリエ著



フランク・ティリエはかなりダークな側面がある、濃厚なノワール・ミステリー。

フランスって、エスプリばかりじゃない・・・と教えてくれるのがフランク・ティリエ。
『その女アレックス』の中の殺人が残酷過ぎるという意見があるそうですが、そういう人はフランク・ティリエは読めないかもしれません。
残酷な殺し方がたくさん出てくる上に、主人公はこれでもかとトコトン痛めつけられるので、好みは分かれそうです。でも、本の表紙と裏表紙のあらすじを見ただけで"内容と傾向"はわかるので大丈夫!



パリ警視庁警視シャルコの妻シュザンヌが誘拐され6か月が過ぎる頃、パリ郊外で若き未亡人の惨殺された死体が発見される。ロープで緊縛され、皮膚をフックにかけられて眼球をくりぬかれていたのだ。
シャルコは犯人から残酷な殺しを克明に記録したメールを受け取る。中世に異端審問官だった殺人鬼ミカエル神父の再来と名乗る「赤い天使」との戦慄する戦いが幕を上げる。












ティリエは辟易するほど、残忍な殺人事件を連発してきます。読む前に心の準備が必要なぐらいです。たぶん好き嫌いがはっきりと分かれる作家なのではないでしょうか。
とはいえ、ドライでダークなミステリーに浸りたいときにはお薦めです。(最近はTVのスリラーの脚本も書いているそうです。)



この他にも『倒錯の罠 女精神科医ヴェラ』 Virginie Brac著、ノワールなサイコ・サスペンスながらユーモアもあるフランス・ミステリーなど多々あります。
フランスにはダークな香りが漂うミステリーが一杯です。


2014年12月23日火曜日

『今日から地球人』 ~THE HUMANS ヴォナドリア星人による報告書



❝人間など作り話にすぎないと信じている皆さん。彼らは実際に存在する。❞


『今日から地球人』 マット・ヘイグ著   ~THE HUMANS      by Matt Haig 



"EARTH" Photo by Beth Scupham https://www.flickr.com/photos/bethscupham/




わたしはその男ではなかった。アンドルー・マーティン教授ケンブリッジ大学の43歳の数学教授でもない。夫でも父親でもない。
もちろん、地球が実際に存在することは『戦う阿呆たち  ~水の惑星7081の人間たちとの時間』という名高い旅行記を摂取していたので知っていた。

全ては、アンドルー・マーティン教授が「リーマン予想」(←ご存じのとおり、数学における最も重要な未解決問題である)を証明してしまったことから始まったのである。
この難問を解いた結果、人類は誰にも想像出来ないほど進歩するだろう。
だが、われわれヴォナドリア星人はこの危機をアンドルー・マーティン教授の暗殺およびその関係者の暗殺で解決すると決定し、わたしを地球に送り込んだ。人間のような暴力的で強欲な生き物に高度な科学技術を与えて宇宙の平和を乱されては困るからである。



"NHKスペシャル魔性の難問~リーマン予想・天才たちの戦い"  Photo by fuba recoder https://www.flickr.com/photos/fuba_recorder/


しかしながら、首尾よくアンドルー・マーティン教授を抹殺して(抹殺したのはわたしではない)、彼と入れ替わりはしたものの、地球人の習慣や生活は簡単になじめるものではなく、衣服を身に着けなければならないことを知る前に素っ裸でコーパス・クリスティ・カレッジを歩きまわり、もちろんYou Tubeにアップされ、息子だという15歳のガリヴァーの立場をますます悪化させて治安紊乱を犯した結果、病院に放りこまれてしまった。



"Corpus Christi College" Photo by Duncan https://www.flickr.com/photos/duncanh1/




病院に面会にきた妻であるはずのイゾベル・マーティンは、まるでわたしを912,673の立方根(97)であるかのように見る。もちろんわたしもその立方根らしく美しく振る舞おうとした。

ところがである。
「リーマン予想」を証明したことを報告したメールの送付先、ケンブリッジ大学で数学のルーカス教授職にあるダニエル・ラッセルを始末したわたしは、悪夢にうなされた。
そのわたしを気遣うイゾベル(夫婦仲はとっくに壊れているらしい)、学校生活に行き詰って自殺を試みるガリヴァーに、自然となにかしらの感情が芽生えてきたのを報告したい。

その結果、予想もしなかったが、わたしは自分のギフト(触れるだけで人や動物を癒せる、または殺すなど)を手放して、地球人として暮らしていくことを選んだのである。
イゾベルやガリヴァー、犬のニュートンとこの地球で暮らすことを選んだのだ。




"Trisan" Photo by Five Acre Geographic https://www.flickr.com/photos/fiveacregeographic/




けれども当然ながら、ヴォナドリア星人、地球外生命体の星主たちはわれわれを放っといてくれなかった。
イゾベルとガリヴァーを抹殺すべく、またしても暗殺者を送り込んできたのだ。彼らは「リーマン予想」がアンドルー・マーティン教授によって解明されたことなど、全く知らないのに・・・。

イゾベルとガリヴァーを護ることはできたが、結局はヴォナドリア星人であることを2人に告白することとなり、家を出ていくこととなってしまった。
アメリカに渡り、スタンフォード大学で教鞭をとり、わたしは人間であることを学んだ。
酔っ払い、孤独になり、音楽を聴き、夜中に泣いた。
詩もたくさん読んだ。

そして、ケンブリッジに戻った。



地球からヴォナドリア星までの距離


ケンブリッジの家にあるグレープフルーツが太陽だとしたら、地球は葡萄一粒。
ヴォナドリアはニュージーランドに置いたオレンジ。



"Fruity" Photo by Cybergate9 https://www.flickr.com/photos/cybergate9/




ちなみに、人間のコンピューター・ネットワークのあらゆるセキュリティシステムが素数に基づいているため、ハッキングするのはごく簡単である。
ガリヴァーのコンピューターに侵入し、Facebookでガリヴァーをいじめた奴らに仕返しをしたこともここに報告しておきたい。

2014年12月20日土曜日

『ドクター・フー』 ~Doctor Who クリスマス・スペシャル! "クリスマス・キャロル"




イギリスのご長寿SFドラマ『ドクター・フー』 ~Doctor Who

1963年のクラシック・シリーズの開始以来、途中で休憩を挟んで2005年から再開し、現在継続中。







"ドクター・フー"  Doctor Who 



〈名前〉      未公開
〈年齢〉      1000歳以上 (シーズン6、エピソード1では1103歳)
〈出身地〉      惑星  Gallifrey
〈乗り物〉     TARDIS タイプ40     (注:盗んだもの) 
〈愛用品〉     ソニック・スクリュードライバー (多目的に活用できるが、木製家具や木製ドアには効かない)
〈特長〉                  身体をひどく損傷した場合、再生して新しい身体と性格に変わる




あまりにも長く続いているドラマのため、いったいどこから観ればよいのか迷います。
お薦めは"クリスマス・スペシャル"!
UKでは12月25日に"クリスマス・スペシャル"として『ドクター・フー』の特別エピソードを放送しているので、まずはこのスペシャル版から『ドクター・フー』の世界へ入って行きましょう。

独立したストーリー展開なので、事前に『ドクター・フー』に関する知識を持っていなくてもOK!
とりあえず"ターディス"という外見は青い小さなポリス・ボックス、内側は外側よりも広大なタイムマシンで時空や宇宙を旅している異星人ということだけ知っていれば大丈夫。




特にお薦めなエピソードは、『ドクター・フー ニュージェネレーション』シーズン5、エピソード14、2010年12月25日に放送された『クリスマス・キャロル』です。


この時のドクター・フーは、マット・スミス。
歴代のドクターのなかで最も若いのですが、明るくて笑顔が素敵。あまりダークさが無いのが特長。
「魚のフライにカスタードをつけて食べる」のが好きで、「Bow Tie 蝶ネクタイ」にこだわっています。

4000人の乗客を乗せた巨大な宇宙船が墜落しそうになり、ある惑星に不時着を試みますが、正体不明の霧に阻まれて危険なため、ドクターが惑星の天候を操るカズランという老人の説得を試みます。
老人の心は頑なで、自分の利益になること以外にはなんの関心も持っていないのですが、ドクターは老人の「過去」に係わっていき、「現在」と「未来」を変えていこうとします。
物語のベースはチャールズ・ディケンス『クリスマス・キャロル』。守銭奴のスクルージが改心するお話です。






【11代目 ドクターに係わる人々、異星人他】



11代目ドクター







ターディス TARDIS  (Time and Relative Dimension in Space )とっても大事なドクターの相棒。
内部は外見よりはるかに大きい宇宙船。
Sheです。






エイミー・ポンドとローリー・ウイリアムズ
再生したドクターが最初に出会ったのが8歳のエイミー・ポンド。
再会後にエイミーとローリーをコンパニオン(旅の仲間)として時空を飛び回るが、悲しい別れが待っています。








クララ・オズワルド (オズウィン)
最初は宇宙船に独りで取り残されたサバイバーとして、ドクターたちを救う女性として出会う。
その時に死んだが、エイミーたちを失い孤独と罪悪感にさいなまれ、心を閉ざしていたドクターの前にヴィクトリア時代の家庭教師の女性として再会。しかし、また死んでしまう。
謎の女性クララは現代のロンドンに生まれ変わり、全ドクターを救う女性となっていた。
12代目ドクターのコンパニオンとして継続して活躍中。









リヴァー・ソング
出生直後にさらわれ、ドクターを暗殺する者として育てられたエイミーとローリーの娘 (エイミーはドクターの義理の母となります)。考古学の教授。
タイムロードの遺伝子を持っている。
ドクターと結婚するが、ドクターを殺した殺人罪で刑務所暮らしをしていた。クララと出会う頃にはすでに死亡している。








コマンダー・ストラックス  Sontaran Strax
クローン化されたヒューマノイド族。惑星Sontar出身。
ドクターの敵と連携したこともあるが、トカゲ女のマダム・ヴェストラの執事としてヴィクトリア時代に落ち着く。
武器、弾薬などをなにかと使用したがる。
(とても馴染みのある顔立ち。萩尾望都さんのSFマンガ『11人いる』 (1976年発行)に出てくるセグル系灰白色星から来たグレン・クロフに若干似ています。萩尾望都さんは、日本でも有数のSF作家だと思っています。)






マダム・ヴェストラ Silurian(Lizard Lady)
ヴィクトリア時代の女探偵として活躍する。切り裂きジャックを始末した。
普段は厚いヴェールを被っているため、素顔を見た人々は卒倒することも。
助手のジェニーと結婚している。









サイバーマン  Cyberman
元々は惑星MONDASのヒューマノイド。
新シリーズでは、地球のパラレルワールドで開発された身体の中に有機体(脳、中枢神経)を残しているサイボーグ。
度々ドクターや地球を襲う。装甲は柔軟性に優れ、銃弾に耐性があるが、金(gold)製の矢や銃弾は貫通してしまう。(金に弱い)。放射能、電磁波にも弱い。

 



ダーレク  Dalek
最も古い敵の異星人。中身は蛸に似ているという。








嘆きの天使  Weeping Angel
瞬きして目をそらすと襲いかかってくる恐ろしい動く彫像。
とても手強く、シリーズ中何度も現れる。エイミーとローリーたちの悲しいエピソードとも大きく係わっている。







ローリーの父、ブライアン
『ブラウン神父』のマーク・ウイリアムズです。それだけで嬉しい。
ドクターと時空を旅したのをきっかけに、世界を旅するのが趣味になる。
エイミーとローリーを最後に送り出す時に「必ず無事に戻ってくるように」と約束したのですが・・・。









10代目ドクターのデイヴィッド・テナントと11代目のマット・スミスが共演する

50th Anniversary "The Day of the Doctor"


まだ日本ではDVDも発売されていないのですが、予告編です。









   とても仲良しなふたり
    デヴィッドはマットを"兄弟のよう"と言っています

Photos by Doctor Who Facebook




extra







スティーブン・モファット(制作総指揮者)、プレゼンターのマット・スミスとベネディクト・カンバーバッチ
マット・スミスは、『SHERLOCK/シャーロック』のワトソン役のオーディションも受けたそうです。
スティーブン・モファットはワトソンではなく、ドクターと出会ったのです。

2014年12月14日日曜日

『グッドワイフ』 ~The Good Wife クオリティが落ちないアメリカドラマ



とっても好きだったのに、シーズンを重ねていくと何故かテンションが下がっていき、あまり見なくなってしまうドラマがあります。『パーソン・オブ・インタレスト』や『ホワイトカラー』、『コバート・アフェア』。


その一方で、いい意味での緊張感が続いているのが『グッドワイフ』 ~The Good Wife。
法律事務所、法廷バトル、政治活動、選挙運動と盛りだくさんなのに、スッキリみせる余裕のあるドラマです。






主役のアリシア・フロリック役のジュリアナ・マルグリースは、『ER』の看護師役を演じた好感度の高い人。女性に好かれる女性だと思います。
州検事の夫ピーター・フロリックが高級売春婦と浮気し、そのセックス・スキャンダル絡みで収監されたのをきっかけに弁護士としての活動を始めます。
夫から酷い裏切りを受けたのに、離婚もせずに家庭を護り続けるアリシアのことを「ドアマットみたいに踏みつけられていいの?」と問う声もありますが、子供もいるし、夫への想いもまだ残っているし、結婚てそんなに簡単に解消できるものじゃないのよ!というアリシアの心の声が聞こえそうです。
芯の強い女性であり、初めの頃はオドオドしている時もあったのですが、最近ではしたたかな弁護士としての顔も板についてきました。 




Photo by The Good Wife Facebook




ピーター・フロリック役のクリス・ノースは『LAW & ORDER』『SEX AND THE CITY』で見慣れた方。政治家役にピッタリです。カリスマ性やパワーを感じさせる人で、シーズン4では知事に当選!
大統領選のことも視野に入れているようですが、あのセックス・スキャンダルは障害にはならないんでしょうか?もちろんクリントン大統領の前例があるので、潔く謝罪して乗り越えればOKなのでしょうか・・・アメリカでは?フランスでは、女性関係などはあくまでもプライベートの生活のことなので、無関係なようですが。










ウィル・ガードナー役のジョシュ・チャールズ。
ウィルはアリシアの学生時代の友人で、事務所への就職も紹介してくれた人。顧客の資金の使い込みがばれたため、弁護士資格を6か月停止されてしまいますが、第4シーズンの半ばで無事に戻ってくることが出来ました。
アリシアとの関係も終わらせたのに、まだ何だか残り火が燻っている状態・・・。なのに、どうやら第5シーズンで亡くなってしまうそうです。同じドラマでずっと同じ役柄を演じるのに疲れたのでしょうか?時々、こんな風にドラマの途中で降板する俳優さんがいます・・・。少し、もったいない気もするのですが。




Photo by The Good Wife Facebook






ケイリー・アゴス役のマット・ズクリィ(Matt Czuchry)は、『ギルモア・ガールズ』に出演していた魅力的な人です。
アリシアと同期ですが、一時は検事局に転職(事務所がアソシエイトの数を減らしたため)、今回の第4シーズンで事務所に復帰。
頭が良くて野心的、でもガツガツしていない。反論するかな?と思われる場面で、薄っすらとした曖昧な微笑を浮かべるのが得意です。親に突き放されてきたのですが、父親を仕事で乗り越えることが出来たのでトラウマは無くなったかもしれません。
第5シーズンでは、アリシアと事務所を設立して独立します。
第6シーズンでは、ドラッグ絡みの犯罪に巻き込まれ、収監されてしまうことに・・・。あまりケイリーをいじめないでいただきたいものです。



cuteなケイリー・アゴス




カリンダとケイリー







イーライ・ゴールド役のアラン・カミングは、もしかして『グッドワイフ』の俳優陣のなかで最も有名で力のある俳優なのではないでしょうか。
スコットランド出身で、舞台『キャバレー』で↓トニー賞を獲得しています。


舞台『キャバレー』  真ん中がアラン・カミング






最近では、映画『チョコレート・ドーナツ』も評価が高いです。
舞台に映画にドラマ出演。とても忙しそうなアラン・カミングですが、イーライ・ゴールドはピーターの州知事選の政治コンサルタントとして活躍。途中で司法省に睨まれて捜査を受けたりもしますが(とばっちりを受けて、事務所も家宅捜査の対象になる)、めでたくピーターを当選させます。事務所のビジネス・パートナーでもあるのでかなり頻繁に現れる役ですが、たまに片眉だけを上げて懸念を表する場面は見逃せません!
政治家としてだけではなく、人間としてのピーター・フロリックに惚れ込んでいる模様。











ダイアン・ロックハートを演じているのはクリスティーン・バランスキー。
ジュリアード音楽院を卒業しているので、音楽の才能もある女優さんです。
かなり特徴のある顔つきで、美人か否かなんて論じることのできない、タフなビジネス・ウーマンのイメージにピッタリの人です。
ダイアンのお相手の弾道分析の専門家、カート・マクヴェイは弁護士事務所のパートナーの恋人としては意外な感じですが、ダイアンの冒険家的な要素がここに現れていると思います。










カリンダ・シャルマを演じているのは、アーチー・パンジャビというロンドン生まれのインド系イギリス人の女優さんです。
カリンダは何でもあっという間に調査してしまう能力を持つ事務所に不可欠なフリーの調査員なんですが、カリンダ(アーチー・パンジャビ)は第6シーズンで降板するので、ウィルもカリンダもいなくなってしまう『グッドワイフ』がちょっぴり心配です。でも、長く続くドラマは頻繁にキャストの入れ替えがある方がいいのかもしれません(例:LAW & ORDER,  MI5)。




Photo by The Good Wife Facebook






【ゲスト】

『グッドワイフ』はゲストが充実しています。


弁護士ルイス・ケニング。
マイケル・J・フォックス。遅発性ジスキネジアを患っている個人事務所の弁護士。病気を盾にして同情をひく戦法、ネチネチとした弁護が得意。アリシアを自分の事務所に誘っています。準レギュラーと言えるほど、頻繁に登場します。








カリンダの夫、ニック。マーク・ウォーレン、UKドラマで頻繁に目にする個性的な俳優。
『ステート・オブ・プレイ』 ~STATE OF PLAYのドミニク役はかなり気になる役柄でした。
カリンダの夫役にマーク・ウオーレンを選んでしまうなんて、プロデューサーのリドリー・スコットとトニー・スコット(もう亡くなられてしまいましたが)を尊敬します。個人的には、カリンダの夫はもっと年上で迫力のある人を予想していたのですが、おもしろい人を持ってきました。




Photo by The Good Wife Facebook




エルスベス・タシオニ
妙な、おかしな、の形容詞で評される赤毛の女性弁護士。
いつもはち切れそうなカバンを抱え、見た目は切れ者に見えないのですが、事務所やウィル、ピーターの危機を何度も救っている恩人。とても人気者で、登場回数も多いキャラクター。
キャリー・プレストンが演じています。








この他にも、赤ん坊連れで現れて授乳タイムを要求して混乱させる弁護士、新人っぽさを売りにしているチアリーダー風のしたたかな弁護士、法廷経験ゼロの怪しい弁護士などがゾロゾロ出演していて、裁判官の共感を得て有利に審理を進めていきます。



『グッドワイフ』は家庭の事情が絡んでくるドラマなのですが、
「夫の浮気が世間的にばれる」⇒「妻として謝罪会見に同席しなければならない屈辱」
ということから始まっているにもかかわらず、あまりドロドロした空気を引きずらずに進んでいく大人のドラマです(しかし、この先は暗くなっていきそうですが)。
ここで反論したり、ムッとするのでは?と思われる場面でも、登場人物達は何も言わずに微笑んだり、無表情を保ってやりすごします(イーライは片眉を上げる)。
セリフで全てを語らずに、表情やアクションで読み取らせる点が秀逸です。



そして、最新の第4シーズンのエピソードも色々な切り口から描かれていましたが、第18話『依頼人の死』はアリシアに恋していた依頼人がアリシアに会いたいが為に数多くの訴訟を起こす・・・というストーリー。若くもなくハンサムでもない依頼人は、訴訟相手に殺されてしまったのですが、切なくてさらりと描かれている印象的なエピソードです。



アメリカでは現在シーズン6まで放送されています。
日本ではシーズン4までNHK BSで放映され、DVDが発売、レンタルされています。

2014年12月1日月曜日

大人の童話 『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』  THE EXTRAORDINARY JOURNEY OF THE FAKIR ・・・









『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅 ロマン・プエルトラス作            


『THE EXTRAORDINARY JOURNEY OF THE FAKIR WHO REMAINED STUCK IN AN IKEA WARDROBE』 by Romain Puertolas




文字通り、タイトルに物語の行方がすべて込められている作品です。


主人公はインドからイケアの針ベッド(残念ながら、針ベッドがどういうものなのか未だにサッパリわかりません…)を求めて(なぜなら、インドの法律のおかげでイケアはまだインド国内で店舗を持っていないため)、フランス、花の都パリに信者を騙して飛行機代を捻出してやってきたサドゥー


訳者の注意書きより  日本語訳ではサドゥー(ヒンドゥー行者)とされていますが、原書のフランス語ではファキール(fakir)とされていて、ファキールとは、
本来はアッラー神に帰依するムスリム苦行者を意味する言葉なのに、本書の主人公は仏陀やシヴァ神に祈りを捧げる・・・
ような宗教的にはハチャメチャな主人公なので、サドゥーという呼称に変更したそうです。


サドゥー(行者)の名前はアジャタシャトルー(通称アジャ)。
アジャタシャトルーという名前は、聞きようによっては〈赤毛の猫を買え〉〈穴あきパンツなら山ほど持っている〉などと聞こえるらしい変幻自在の名前です。フランス語がわかると、もっと愉しいでしょう

そんな彼がなけなしの偽造100ユーロ(裏が白紙)で、ロマのタクシー運転手ギュスターブを騙してタクシーでパリのイケアに到着したことから物語は始まります。




フィンランド版 
アジャが持っていたイケアの鉛筆と紙製メジャー
Photo by Romein Puertolas Facebook


100ユーロ騙されて怒り狂うタクシー運転手のことなど知らぬまま、巨大なイケアに吸い込まれていったアジャタシャトルーは、針ベッドの予約を済ませ、素敵なパリジェンヌのマリーとの出会いを経て、その晩はそのままイケアで過ごすことに決めたのですが、人の話し声が聞こえたため慌てて隠れたタンスごとイギリスに輸送されてしまいます。タンス=ワードローブなので、ナルニア国への入口のワードローブを思い浮かべると正解です。




大型トラックにタンスごと積み込まれ、偶然トラックの中にいたスーダン人の密航者イサームに救出されてホッとしたのも束の間、すぐにイギリスのUKBA(英国国境局)に発見されてスーダン人たちがやって来たスペインのバルセロナへと送られてしまいます。




アジャが辿り着いてしまった英仏海峡トンネルから数分のフォクストーン
英国側出口
Channel Tunnel Terminal.jpg
"Channel Tunnel Terminal" by Stephen Dawson -
 Copied from the English Wikipedia. Licensed under CC BY-SA 2.0 via Wikimedia Commons.



バルセロナ到着後、第1ターミナルの荷物受取場を横切っていたアジャと遭遇したのは、例年のバカンスを楽しもうとスペイン旅行にやって来たギュスターブ、あの怒り狂っているタクシー運転手です。
必死で逃げるアジャは、とっさに他人の手荷物であるルイ・ヴィトンのトランクに忍び込みます。





Huge Louis Vuitton Bags   Photo by Conny Liegl
https://www.flickr.com/photos/moonsoleil/















ところがそのトランクはフランスを代表する有名な女優ソフィー・ルソー(✗ソフィー・マルソーではありません!)の物だったため、アジャはトランクに潜んだままイタリアへ向かうことになります。


こちらはソフィー・マルソー





幸いにも空調が効いた貨物室の中、トランクからはい出たアジャは突然作家になることを決意。頭に浮かんできた物語を、着ていたシャツに書き込んでいき、そうこうしているうちに飛行機は無事にイタリアのローマに着陸します。
ソフィー・モルソーと彼女の滞在するホテルの部屋で出会ったアジャは、これまでの顛末をありのままに語ります。ソフィーは驚愕しながらも、アジャの存在を受け入れてホテルの部屋を提供してくれ、マネージャーのエルヴェの紹介でアジャの作品を出版してくれる出版社までみつかりました!
そしてアジャは、アドバンスとして10万ユーロの現金を受けとったのでした。



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Photo by Emilian Robert Vicol
https://www.flickr.com/photos/free-stock/







しかし、好事魔多しです。
作家に転じたアジャの前に現れたのは、怒れるタクシー運転手ギュスターブの手先のローマの理髪師。襲いかかってきた理髪師からなんとか逃げ出したアジャは、公園で気球に乗り込み、もちろん気球はアジャだけを乗せて空高く舞い上がってしまいました。








風の吹くままに流されたアジャは、危険な国リビアに向かう船に未確認浮遊物体として回収され、
口先三寸で船長をだまして15000ユーロでトリポリ港で下船することに成功します。
そんなアジャと再会したのはスーダン人のイサーム。
英国入国がかなわず、なぜかリビアに流されて来ていたのです。
イサームに身の上話とこれまでの顛末を語ったアジャは、イサームの村の人々のために40000ユーロをプレゼントし、恐縮しながらも受け取ったイサームは故郷のスーダンに帰国できることになりました!




トリポリの空港  戦闘で外観にダメージを受けています




イケアで出会ったマリーに再会するために、奇跡的にパリに舞い戻ってきたアジャ。
喜び勇んで駆けつけるマリーは、あの怒れるタクシー運転手のギュスターブのタクシーに乗車し、ついにマリーとついでにギュスターブとの再会を果たしたアジャなのでした。




こんなに移動しました!





ヨーロッパを縦横無尽に横断したアジャは、シャツに書いた原稿を全面的に書き直し、無事に出版を果たしてマリーと結ばれます。作品を書き直したアジャの思うことは、結末はHAPPY ENDでなければならないということ。希望を感じさせる物語にすることでした。
きっとこの作者のロマン・プエルトラスの想いもアジャと同じでしょう。
ロマン・プエルトラスの経歴は、作曲家、語学教師、客室乗務員、DJ、マジシャン、航空管制官を経て、国境警察本部の警察官の警部補に落ち着いたそうです(現在は休職中)。通勤電車内でスマホにインプットするという方法で、こんなに軽妙洒脱な物語を書き上げています。

気軽に読める愉しい物語ですが、不法移民を間近に見ている作者ならではの視点が随所に盛り込まれています。"何もかも持つことのできる国"、車、家、野菜、肉、水を簡単に得ることのできる国へ、何も持つことのできない国からやって来る密航者の物語でもあるのです。




Paris   Photo by Wllhellm Lappe https://www.flickr.com/photos/wlappe/



Paris HDR2    Photo by DAVID S.M. https://www.flickr.com/photos/dsmoreno/





作者のロマン・プエルトラス
Photo by Romain Puertolas Facebook
https://www.facebook.com/romainpuertolasofficial?fref=photo