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2014年12月23日火曜日

『今日から地球人』 ~THE HUMANS ヴォナドリア星人による報告書



❝人間など作り話にすぎないと信じている皆さん。彼らは実際に存在する。❞


『今日から地球人』 マット・ヘイグ著   ~THE HUMANS      by Matt Haig 



"EARTH" Photo by Beth Scupham https://www.flickr.com/photos/bethscupham/




わたしはその男ではなかった。アンドルー・マーティン教授ケンブリッジ大学の43歳の数学教授でもない。夫でも父親でもない。
もちろん、地球が実際に存在することは『戦う阿呆たち  ~水の惑星7081の人間たちとの時間』という名高い旅行記を摂取していたので知っていた。

全ては、アンドルー・マーティン教授が「リーマン予想」(←ご存じのとおり、数学における最も重要な未解決問題である)を証明してしまったことから始まったのである。
この難問を解いた結果、人類は誰にも想像出来ないほど進歩するだろう。
だが、われわれヴォナドリア星人はこの危機をアンドルー・マーティン教授の暗殺およびその関係者の暗殺で解決すると決定し、わたしを地球に送り込んだ。人間のような暴力的で強欲な生き物に高度な科学技術を与えて宇宙の平和を乱されては困るからである。



"NHKスペシャル魔性の難問~リーマン予想・天才たちの戦い"  Photo by fuba recoder https://www.flickr.com/photos/fuba_recorder/


しかしながら、首尾よくアンドルー・マーティン教授を抹殺して(抹殺したのはわたしではない)、彼と入れ替わりはしたものの、地球人の習慣や生活は簡単になじめるものではなく、衣服を身に着けなければならないことを知る前に素っ裸でコーパス・クリスティ・カレッジを歩きまわり、もちろんYou Tubeにアップされ、息子だという15歳のガリヴァーの立場をますます悪化させて治安紊乱を犯した結果、病院に放りこまれてしまった。



"Corpus Christi College" Photo by Duncan https://www.flickr.com/photos/duncanh1/




病院に面会にきた妻であるはずのイゾベル・マーティンは、まるでわたしを912,673の立方根(97)であるかのように見る。もちろんわたしもその立方根らしく美しく振る舞おうとした。

ところがである。
「リーマン予想」を証明したことを報告したメールの送付先、ケンブリッジ大学で数学のルーカス教授職にあるダニエル・ラッセルを始末したわたしは、悪夢にうなされた。
そのわたしを気遣うイゾベル(夫婦仲はとっくに壊れているらしい)、学校生活に行き詰って自殺を試みるガリヴァーに、自然となにかしらの感情が芽生えてきたのを報告したい。

その結果、予想もしなかったが、わたしは自分のギフト(触れるだけで人や動物を癒せる、または殺すなど)を手放して、地球人として暮らしていくことを選んだのである。
イゾベルやガリヴァー、犬のニュートンとこの地球で暮らすことを選んだのだ。




"Trisan" Photo by Five Acre Geographic https://www.flickr.com/photos/fiveacregeographic/




けれども当然ながら、ヴォナドリア星人、地球外生命体の星主たちはわれわれを放っといてくれなかった。
イゾベルとガリヴァーを抹殺すべく、またしても暗殺者を送り込んできたのだ。彼らは「リーマン予想」がアンドルー・マーティン教授によって解明されたことなど、全く知らないのに・・・。

イゾベルとガリヴァーを護ることはできたが、結局はヴォナドリア星人であることを2人に告白することとなり、家を出ていくこととなってしまった。
アメリカに渡り、スタンフォード大学で教鞭をとり、わたしは人間であることを学んだ。
酔っ払い、孤独になり、音楽を聴き、夜中に泣いた。
詩もたくさん読んだ。

そして、ケンブリッジに戻った。



地球からヴォナドリア星までの距離


ケンブリッジの家にあるグレープフルーツが太陽だとしたら、地球は葡萄一粒。
ヴォナドリアはニュージーランドに置いたオレンジ。



"Fruity" Photo by Cybergate9 https://www.flickr.com/photos/cybergate9/




ちなみに、人間のコンピューター・ネットワークのあらゆるセキュリティシステムが素数に基づいているため、ハッキングするのはごく簡単である。
ガリヴァーのコンピューターに侵入し、Facebookでガリヴァーをいじめた奴らに仕返しをしたこともここに報告しておきたい。