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2014年12月1日月曜日

大人の童話 『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』  THE EXTRAORDINARY JOURNEY OF THE FAKIR ・・・









『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅 ロマン・プエルトラス作            


『THE EXTRAORDINARY JOURNEY OF THE FAKIR WHO REMAINED STUCK IN AN IKEA WARDROBE』 by Romain Puertolas




文字通り、タイトルに物語の行方がすべて込められている作品です。


主人公はインドからイケアの針ベッド(残念ながら、針ベッドがどういうものなのか未だにサッパリわかりません…)を求めて(なぜなら、インドの法律のおかげでイケアはまだインド国内で店舗を持っていないため)、フランス、花の都パリに信者を騙して飛行機代を捻出してやってきたサドゥー


訳者の注意書きより  日本語訳ではサドゥー(ヒンドゥー行者)とされていますが、原書のフランス語ではファキール(fakir)とされていて、ファキールとは、
本来はアッラー神に帰依するムスリム苦行者を意味する言葉なのに、本書の主人公は仏陀やシヴァ神に祈りを捧げる・・・
ような宗教的にはハチャメチャな主人公なので、サドゥーという呼称に変更したそうです。


サドゥー(行者)の名前はアジャタシャトルー(通称アジャ)。
アジャタシャトルーという名前は、聞きようによっては〈赤毛の猫を買え〉〈穴あきパンツなら山ほど持っている〉などと聞こえるらしい変幻自在の名前です。フランス語がわかると、もっと愉しいでしょう

そんな彼がなけなしの偽造100ユーロ(裏が白紙)で、ロマのタクシー運転手ギュスターブを騙してタクシーでパリのイケアに到着したことから物語は始まります。




フィンランド版 
アジャが持っていたイケアの鉛筆と紙製メジャー
Photo by Romein Puertolas Facebook


100ユーロ騙されて怒り狂うタクシー運転手のことなど知らぬまま、巨大なイケアに吸い込まれていったアジャタシャトルーは、針ベッドの予約を済ませ、素敵なパリジェンヌのマリーとの出会いを経て、その晩はそのままイケアで過ごすことに決めたのですが、人の話し声が聞こえたため慌てて隠れたタンスごとイギリスに輸送されてしまいます。タンス=ワードローブなので、ナルニア国への入口のワードローブを思い浮かべると正解です。




大型トラックにタンスごと積み込まれ、偶然トラックの中にいたスーダン人の密航者イサームに救出されてホッとしたのも束の間、すぐにイギリスのUKBA(英国国境局)に発見されてスーダン人たちがやって来たスペインのバルセロナへと送られてしまいます。




アジャが辿り着いてしまった英仏海峡トンネルから数分のフォクストーン
英国側出口
Channel Tunnel Terminal.jpg
"Channel Tunnel Terminal" by Stephen Dawson -
 Copied from the English Wikipedia. Licensed under CC BY-SA 2.0 via Wikimedia Commons.



バルセロナ到着後、第1ターミナルの荷物受取場を横切っていたアジャと遭遇したのは、例年のバカンスを楽しもうとスペイン旅行にやって来たギュスターブ、あの怒り狂っているタクシー運転手です。
必死で逃げるアジャは、とっさに他人の手荷物であるルイ・ヴィトンのトランクに忍び込みます。





Huge Louis Vuitton Bags   Photo by Conny Liegl
https://www.flickr.com/photos/moonsoleil/















ところがそのトランクはフランスを代表する有名な女優ソフィー・ルソー(✗ソフィー・マルソーではありません!)の物だったため、アジャはトランクに潜んだままイタリアへ向かうことになります。


こちらはソフィー・マルソー





幸いにも空調が効いた貨物室の中、トランクからはい出たアジャは突然作家になることを決意。頭に浮かんできた物語を、着ていたシャツに書き込んでいき、そうこうしているうちに飛行機は無事にイタリアのローマに着陸します。
ソフィー・モルソーと彼女の滞在するホテルの部屋で出会ったアジャは、これまでの顛末をありのままに語ります。ソフィーは驚愕しながらも、アジャの存在を受け入れてホテルの部屋を提供してくれ、マネージャーのエルヴェの紹介でアジャの作品を出版してくれる出版社までみつかりました!
そしてアジャは、アドバンスとして10万ユーロの現金を受けとったのでした。



Money_500_EURO_162873_480×360
Photo by Emilian Robert Vicol
https://www.flickr.com/photos/free-stock/







しかし、好事魔多しです。
作家に転じたアジャの前に現れたのは、怒れるタクシー運転手ギュスターブの手先のローマの理髪師。襲いかかってきた理髪師からなんとか逃げ出したアジャは、公園で気球に乗り込み、もちろん気球はアジャだけを乗せて空高く舞い上がってしまいました。








風の吹くままに流されたアジャは、危険な国リビアに向かう船に未確認浮遊物体として回収され、
口先三寸で船長をだまして15000ユーロでトリポリ港で下船することに成功します。
そんなアジャと再会したのはスーダン人のイサーム。
英国入国がかなわず、なぜかリビアに流されて来ていたのです。
イサームに身の上話とこれまでの顛末を語ったアジャは、イサームの村の人々のために40000ユーロをプレゼントし、恐縮しながらも受け取ったイサームは故郷のスーダンに帰国できることになりました!




トリポリの空港  戦闘で外観にダメージを受けています




イケアで出会ったマリーに再会するために、奇跡的にパリに舞い戻ってきたアジャ。
喜び勇んで駆けつけるマリーは、あの怒れるタクシー運転手のギュスターブのタクシーに乗車し、ついにマリーとついでにギュスターブとの再会を果たしたアジャなのでした。




こんなに移動しました!





ヨーロッパを縦横無尽に横断したアジャは、シャツに書いた原稿を全面的に書き直し、無事に出版を果たしてマリーと結ばれます。作品を書き直したアジャの思うことは、結末はHAPPY ENDでなければならないということ。希望を感じさせる物語にすることでした。
きっとこの作者のロマン・プエルトラスの想いもアジャと同じでしょう。
ロマン・プエルトラスの経歴は、作曲家、語学教師、客室乗務員、DJ、マジシャン、航空管制官を経て、国境警察本部の警察官の警部補に落ち着いたそうです(現在は休職中)。通勤電車内でスマホにインプットするという方法で、こんなに軽妙洒脱な物語を書き上げています。

気軽に読める愉しい物語ですが、不法移民を間近に見ている作者ならではの視点が随所に盛り込まれています。"何もかも持つことのできる国"、車、家、野菜、肉、水を簡単に得ることのできる国へ、何も持つことのできない国からやって来る密航者の物語でもあるのです。




Paris   Photo by Wllhellm Lappe https://www.flickr.com/photos/wlappe/



Paris HDR2    Photo by DAVID S.M. https://www.flickr.com/photos/dsmoreno/





作者のロマン・プエルトラス
Photo by Romain Puertolas Facebook
https://www.facebook.com/romainpuertolasofficial?fref=photo