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2014年12月30日火曜日

『死のドレスを花婿に』『ニコラ・ル・フロック』 ~Nicolas Le Floch 他フランスミステリー ★




最近、北欧ミステリー"Nordic Noir" が大流行りなんですが、フランスミステリーも"French Noir"と言えるのではないでしょうか。


圧倒的にダークな側面を見て、「フランスってこんな国だったんだ・・・」とフランス革命とベルサイユ宮殿、レジスタンス運動ぐらいしか知識のない人間には衝撃的なミステリーの世界が広がっていきます。


【 前回紹介した 『その女アレックス』  ピエール・ルメートル著 


"このミステリーがすごい!2015年版 海外編" でも堂々の第1位。









これは文句なく、圧倒的に他の作品を上回っていて点数のつけようがありません。
時間をおいて読み返してみると、前回はストーリーに圧倒されて脳内から抜け落ちてしまっていた細かい部分に心が動きます。
特に予審判事のヴィダールカミーユ警部とそりが合わず、読者としても反感を感じつつ読んでいたのですが、最後の最後で「真実はいったい誰が定義できるのか」、「大事なのは正義ですよ」とさらりと言い放ちます。この軽さがかえってヴィダール判事の"信念の硬さ"を感じさせて感動します。
もちろん、人間の複雑さと深みを一番体現して見せているのはアルマンなのですが。


『女警部ジュリー・レスコー』に出演していたモタ役のアレクシス・デソー
やっぱりアルマンのイメージはこの人です☆彡








【 2009年に出版されていた同じくピエール・ルメートル著『死のドレスを花婿に』 








これはルメートルの2作目の作品で、いわば画家の習作のようなもの。
「追い詰められた女性が、逆転劇を演じる」のがモチーフとなっているのがわかります。
同じモチーフを用いて、ドンドン書いてもらってもいいと思うのですが、『その女アレックス』のあとに読むとなんだか少し物足りないかもしれません。

お話は夫や姑、シッター先の子供などが次々に死んでいき、殺人犯として手配される主人公のソフィーと、ソフィーを追う謎の男フランツ、ソフィーを心配する父親のパトリックの三者の間でほぼ展開していきます。
フランツのパートでは、ソフィーの過去の行動をフランツ側からなぞっていくことになるので、新鮮味にかけてしまうのが困りますし、ソフィーの視点から見れば復讐を遂げて"一件落着"なのですが、「ん?殺された人達の家族は真犯人を知らなくていいの?正義は?」という疑問が生じるラストです。
警察の捜査からの視点が入っていれば、より複雑になって面白くなったのではないかと思いますが、そうなると『その女アレックス』と同じような構成になってしまうのかな?と。




ジャン=フランソワ・パロ著『ニコラ・ル・フロック』~Nicolas Le Flochシリーズ 】


フランス国営TVでドラマ化されている、18世紀のフランスを舞台にした王国高等警察の警視が主人公のミステリー。
「ブラン・マントー通りの謎」
「鉛を呑まされた男」
「ロワイヤル通りの悪魔憑き」の3作。








18世紀のフランスの華やかな部分だけでなく影の部分もしっかり織り込まれている、抑えた筆致のとても緻密なミステリー小説です。内容は濃厚でダーク、時代考証もしっかりしており、ミステリー好きの方にはお薦めです。

特に魅力的なのが、主人公のニコラ・ル・フロックが侯爵であり警視(捜査官)でもあるという設定。これだけで、想像力(妄想)をかきたてられてしまいます。Amazon Japanのレビューも☆5を付けている人が多いようです。

原作者のジャン=フランソワ・パロは外交官でもあるそうなので、様々な経験が作品に生かされているのでしょうか。



一方ドラマでは、原作を読んだだけでは想像できない部分が120%補われます。
服装や貴族のお屋敷とその内装、宮殿、パリの街並み。そして、ルイ15世のお化粧!サルティンヌ警察総監もカツラの収集に余念がなく、当時の貴族や紳士たちがお洒落に精を出す様子が活き活きと描かれているのです。
もちろんヨーロッパのドラマは裸のシーンも隠すところなく堂々と出していますので、時々目のやり場に困ることもありますが、小説よりドラマのほうがコミカルな場面を多く盛り込んでおり、よりエンターテイメント性の高いものとなっています。















Season 5  episode10   "小麦粉と陰謀"~Blood in the Flour      馬上の二コラが美しいです








『タルタロスの審問官』 他  フランク・ティリエ著



フランク・ティリエはかなりダークな側面がある、濃厚なノワール・ミステリー。

フランスって、エスプリばかりじゃない・・・と教えてくれるのがフランク・ティリエ。
『その女アレックス』の中の殺人が残酷過ぎるという意見があるそうですが、そういう人はフランク・ティリエは読めないかもしれません。
残酷な殺し方がたくさん出てくる上に、主人公はこれでもかとトコトン痛めつけられるので、好みは分かれそうです。でも、本の表紙と裏表紙のあらすじを見ただけで"内容と傾向"はわかるので大丈夫!



パリ警視庁警視シャルコの妻シュザンヌが誘拐され6か月が過ぎる頃、パリ郊外で若き未亡人の惨殺された死体が発見される。ロープで緊縛され、皮膚をフックにかけられて眼球をくりぬかれていたのだ。
シャルコは犯人から残酷な殺しを克明に記録したメールを受け取る。中世に異端審問官だった殺人鬼ミカエル神父の再来と名乗る「赤い天使」との戦慄する戦いが幕を上げる。












ティリエは辟易するほど、残忍な殺人事件を連発してきます。読む前に心の準備が必要なぐらいです。たぶん好き嫌いがはっきりと分かれる作家なのではないでしょうか。
とはいえ、ドライでダークなミステリーに浸りたいときにはお薦めです。(最近はTVのスリラーの脚本も書いているそうです。)



この他にも『倒錯の罠 女精神科医ヴェラ』 Virginie Brac著、ノワールなサイコ・サスペンスながらユーモアもあるフランス・ミステリーなど多々あります。
フランスにはダークな香りが漂うミステリーが一杯です。