久しぶりに出会った楽しい SF〈スチームパンク〉
リヴァイアサン3部作
作者はアメリカのSF作家、スコット・ウェスターフェルド。
主人公は勇敢な気球乗りだった父、航空士官の兄を持つデリン(ディラン)・シャープとオーストリア・ハンガリー帝国の大公夫妻の息子(公子)、アレクサンダー(アレック)・フォン・ホーエンベルグ。
1914年、遺伝子操作された動物を基盤とする〈ダーウィニスト〉と、蒸気機関やディーゼル駆動の機械文明を発達させた〈クランカー〉のふたつの勢力が争っているという設定。クランカー側のほうが現実に(少しは)近い感じです。仮想歴史小説だと作者は語っていますが、1914年夏の史実に基づいた設定となっており、歴史上の人物が登場します。
ふたつの勢力の対立の結果、アレックの両親が暗殺(毒殺)され、公子であるアレックは追われる身に・・・。
一方、飛ぶことに憧れていたデリンは男装して英国海軍航空隊の士官候補生になり、一見なんの共通点もなさそうな2人は巨大飛行獣リヴァイアサンをめぐる事故で邂逅を果たし、デリンは士官候補生一番の活躍ぶりを見せ、お坊ちゃま育ちのアレックも日々鍛えられつつ、お話はドンドン進んでいきます。
巨大飛行獣リヴァイアサンと簡単に書かれても、頭の中で想像するのはちょっと難易度が高すぎますが、親切なことにこのシリーズにはすべて美しい挿絵が入ってるのです。
リヴァイアサンは、鯨をベースに遺伝子操作して作られた飛行艇で、巨大なビルほどもの大きさがあり、鯨の体内がもちろん飛行艇の内部機関となっており、胃腸管周辺はウシのおならの匂いに似たものが充満しているようで、なかなか大変。
遺伝子操作なんて、現実社会では目くじらを立てられそうですが、ここでは思いっきり操作しまくった乗り物や武器となった動物たちが出てきます。
物語前半は飛行艇や飛行技術、各国のお家事情などが詳しく描かれているのですが、後半になるにつれ、戦争を終結させる責任を感じているアレックを助けるデリンが、いつの間にかアレックに恋心を抱くというLove満載の展開になっていき、(それでもデリンは男らしい士官候補生のまま)、ロマンス小説愛読者の鑑賞にも十分耐えられる展開に!
SFにもLoveは必要ですね。
いつもいつも戦ってはいられないのです・・・。
けれども、アレックの父は皇族ではない女官だった女性と結婚したので(貴賤結婚)、アレックには皇位継承権がないということから、「自分は(父のように)平民と結ばれていいのか?」なんて悩んでしまうアレック。(でも母は平民なんだーと書いてあっても、伯爵の娘なので"皇族ではない"という意味の"平民"らしいです。)
しかし、ちゃんと最後はめでたしめでたしの大団円を迎えてくれる、スッキリした結末。
世界大戦の終結も見え、2人の恋もアレックの開眼で無事成就。
スッキリ、あっさりし過ぎ・・・という意見もあるようですが、(健全すぎるとか)、ダークさがないのも、細部にこだわって話を広げ過ぎたりしていない点も好きです。もうちょっと・・・と思わせるのも作家の腕前次第ですし、ロシアでの自然の驚異、アメリカの最後の最後での参戦など史実に沿っている部分も多いので、お話に親近感が持てます。
デリンも最後まで雄々しくハンサムなままです!(ここがロマンス小説とは一線を画すところ)。
リヴァイアサンの本のトレイラー。
物語世界がよくわかります。
各国で本の表紙の絵が異なるようですが、密かに日本の表紙が一番ではないかな~なんて思っています。ちょっぴりレトロっぽいあたり・・・。
フランス版の表紙がこちら↓
これも美しいです。
空獣〈エア・ビースト〉 ハクスリー高空偵察獣