~All You Zombies お前たち、みなゾンビだ!
30ページにも満たないロバート・ハインラインのSF短編です。
SFは時々チャレンジしていますが、さすがにハインラインは敷居が高い!
捻りに捻ったタイム・トラベル・パラドックスです。
物語は1970年のニューヨークのとあるバー(POP酒場)でバーテンダーである航時局員"Time Travel Corpsの一員" が"私生児の母"という25歳の男と出会う場面から始まります。
⇒ここですでに「?」です。「なぜ、私生児の母が25歳の男なの?
物語を時系列で整理します。
【1945年 オハイオ州、クリーブランド】
孤児院の玄関に、缶詰の空き箱に入れられた女の赤ん坊が捨てられる。ジェーンと名付けられる。
【1963年 オハイオ州、クリーブランド】
ジェーンは流れ者の男と出会い、関係を持つ。妊娠したが、男はジェーンを捨てて去ってしまう。
【1964年 オハイオ州、クリーブランド】
ジェーンは女の子を出産する。その際、医師はジェーンが半陰陽(inter-sex) であることに気づく。
「女性の性器は妊娠できる程度に成熟していたが、二度と役に立たなくなっていたので男性として発育するようにしたよ」と言い、ジェーンは男として生きることになる。
生まれた女の子は、4週間後に見知らぬ中年の男によってさらわれてしまう。
何度か手術を受けて完全に男として生きることになったジェーンは、自称"私生児の母"、告白小説を書いて生計をたてていく。
【1970年 ニューヨーク】
"私生児の母"である男、ジェーンはPOP酒場でバーテンダーと出会う。
自分を捨てた流れ者の男を恨んでいるジェーン。
バーテンダーは、その流れ者を見つけて「復讐させてやる」と約束し、その代償に「変化や冒険の多い、給料がよいかたい仕事」をやってみないかと誘う。
ジェーンは同意し、バーテンダーはジェーンの上に航時機(Time Machine)のネットを広げる。⇒(Time Travel Corps に入隊することになります)
一方、航時局員"Time Traveler" の動きです・・・。
【1963年 オハイオ州、クリーブランド】
"私生児の母"をタイムマシンで連れてくる。100ドル札を与えて、「流れ者を捕まえろ」と諭す。1963年にそのまま置き去りにする。
【1963年 オハイオ州、クリーブランド】
18才のジェーンとデートしていた"私生児の母"である男を連れ戻す。
この時点で、"私生児の母"は、「ジェーン」と「ジェーンを誘惑して捨てた流れ者」が自分自身=同一人物であることに気づく。
【1964年 オハイオ州、クリーブランド】
病院に侵入し、女の赤ん坊を連れ去り、孤児院に置き去りにする。
【1970年 ニューヨーク ⇒ 1985年 ロッキー山脈、地下司令部支所】
ジェーンを航時局 "Time travel Corps" に入隊させる。
【1993年 ロッキー山脈、地下司令部支所】
航時局員は、腹の帝王切開の傷跡をみるが、すでに毛むくじゃらになっていて探してみなければわからなくなっている。
⇒ここで、航時局員"Time Traveler"である男、ジェーンの赤ん坊を誘拐して孤児院に置き去りにした男=ジェーンであることが判明します。
★★★結論★★★
ジェーンの母、父、航時局員"Time Traveler"も全てジェーン自身。
ジェーンの家系図は全てジェーンです。
★★★???★★★
⑴ ジェーンはどこから来たのか?or 始まったのか?
(ジェーンは、「わたしは自分がどこから来たのか知っている」といっていますが…)
⑵ 過去から来たジェーンと現在のジェーン(航時局員、バーテンダー)は同時期に共に存在できるのか?
(タイム・トラベル・パラドックスとして、ごく平凡な疑問です…)
ハインラインは、考えうる限りのタイム・トラベル・パラドックスをこの短編に注ぎ込んでいるということです。
航時局員"Time Traveler"がはめている指輪、「己が尾を呑む蛇」は輪廻を象徴しています。
とても詳しくこのパラドックスをアニメーション化しているVideo
イーサン・ホーク主演で『輪廻の蛇』が映画化されています。
タイトルは『プリデスティネーション ~Predestination』(運命、宿命の意)。
映画は"爆弾魔、フィズル・ボマー"の事件も絡んでくるそうです。