『ハリー・クバート事件』 ジョエル・デイケール著
スイス人の作家がフランス語で書いたアメリカを舞台にしたエンターテイメント性の高いミステリー。
(何だかややこしいですね?)
なぜスイス人がアメリカ北東部、ニューイングランド地方を舞台にした殺人事件、しかも登場人物全員ちゃんとアメリカ人のミステリーを書いたのかは、あとがきに解説されているのですが、作者は子供の頃にアメリカのメイン州で夏を過ごしていたため、アメリカになじみが深いのだそうです。
(スイスの夏はアメリカより断然過ごしやすそうなんですが・・・)
第2作に行き詰っていた新人作家のマーカスは、大学の恩師で心の友である大作家のハリー・クバートが、33年前に行方不明となり白骨化した死体が発掘された少女の殺人事件の容疑者として逮捕されたことに愕然とする。少女の遺体はハリーの家の庭から掘り起こされたのだ。
ハリーは少女ノラの殺害は否定するものの、当時15歳だったノラと恋人同士であったことを認め、証拠としてハリーの出世作である『悪の起源』のタイプ打ち原稿が遺体とともに出てきたため、有罪はほぼ確定かと思われた。
どうしてもハリーの有罪が信じられないマーカスは、原稿〆切2週間前にもかかわらず(どうせ何にも書けていないので)ニューヨークを離れ、ニューハンプシャーへ、ハリーのもとへと駆けつける。
"ごつい手をしたアフリカ系アメリカ人"の州警察殺人課巡査部長のガロウッドと出会い、少しずつ事件の真相を解明していくのだが・・・というストーリー。
こう書いてみると、なんだか重苦しくてよくある冤罪ミステリーのようなんですが、とにかくテンポがよくて飽きさせません。
1975年に事件が起きているので、話はよく1975年に戻るのですが、ダラダラと当時のエピソードを描写したりしませんし、お話の中ほどでハリーの容疑は解け、そのあと「これでもか」というほど第一容疑者が次々と現れ、パズルを解くときのように「カードの裏を読んで」犯行を見直すことになっていきます。
終盤になってのどんでん返しがひねりに捻ってあり、最後に真犯人がわかってからもう一度読み直して犯人の行動を確かめてしまいました。
主人公のマーカス・ゴールドマンのイメージは、『SUITS』に出演しているパトリック・J・アダムス。(たぶんユダヤ系ではないと思われますが)
ハリーは文才はありますが、足りない部分はちょっとズルして補ってしまう要領のいいところもある青年なので、『SUITS』でもハーバード大学出身と偽って働く彼がピッタリ。
ボクシングの心得もある恩師のハリー・クバートは、67歳。でも、私の中ではマシュー・マコノヒーのイメージ。
あと20歳老けさせてみてください。
あまり出てきませんが、マーカスの出版エージェントのダグラス・クラーレンはサイモン・ベイカーで!
マーカスのマンションで一緒にスポーツ観戦もします。
やたらとマーカスに電話をかけてきてゲイ疑惑を投げかける母は、スーザン・サランドン。
本当はユダヤ系のはずですが、スーザンしか思い浮かばないのです・・・。
~「マーカス、今からとっても大事な医学的質問をするから聞きなさい。おまえを9か月もお腹に入れていた母親に、正直に答えなさいよ。その部屋にゲイの男の人がいるの?」
非情なNYの出版社社長ロイ・バーナスキは、同じく『SUITS』からガブリエル・マクト。
マーカスがハリーの事件を追っていることを知り、実録本を書け!と迫ります。(映画化も狙う)。
書けなければor〆切に間に合わなければ、ハリーの文体をキッチリとコピーできる優秀なゴーストライターチームに本を仕上げさせる心づもり。
州警察殺人課巡査部長ペリー・ガロウッドなら、イドリス・エルバさん。
マーカスと一緒に真犯人を追います。原作のイメージ以上にイイ男過ぎるかも・・・。
魔性の少女?ノラはとても難しいです。美少女だけど、影もある。でも、すごく評判のいい女の子。
アメリカ人で15歳なら結構大人っぽい気がします。ちょっと思いつきません・・・。
実はこの本はAmazon(Japan)の評価が大荒れ。
『久しぶりに徹夜して読んだ』から、『Mystery初心者向き、がっかりした』なんてコメントも。
私は☆5個を付けてきました。Mysteryはエラリー・クイーン、コナン・ドイル、クリスティーという基本から始まって最近はやりの北欧Mysteryにいたるまでかなり読んでますが、この『ハリー・クバート事件』は気軽に読み始めて止まらなくなりましたので。
悪い評価の意味がさっぱりわかりませんが、マーカスの母親、出版社社長たちとの会話が面白く、エンターテイメント性がある部分を冗長で余計なものだと嫌う方がいるのかもしれません。
(少し、ブリジット・ジョーンズの日記を思い出しました。)
読み終わってすぐに同じ主人公の続編が読みたくなる作品です。