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2014年11月29日土曜日

南アフリカの現実を主題にしたミステリ  『デビルズ・ピーク』 ~DEVIL'S PEAK




『デビルズ・ピーク』は南アフリカの社会派ミステリー作家、デオン・マイヤー(Deon Meyer) の迫力あるミステリー。








南アフリカ。
日本からは地理的にも文化的にも遠すぎるためか、あまり情報は入ってきません。頭に浮かぶには、ネルソン・マンデラ大統領と広大な自然、過去のアパルトヘイト政策、近年ではレイプ事件の件数が非常に増加していること。ネガティブな情報も多く、どんな社会なのか想像するのは難しいです。





South Africa - Location Map (2013) - ZAF - UNOCHA.svg
"South Africa - Location Map (2013) - ZAF - UNOCHA" by UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs (OCHA) - South Africa Locator Map (ReliefWeb). Licensed under CC BY 3.0 via Wikimedia Commons.





今回のお話は、

"ベニー・グリーセル" アルコール依存症の刑事
アルコール依存症の南アフリカ警察(SAPS)の警部補グリーセルは、依存を治すまで6か月の猶予を妻から与えられ、家から叩き出されたばかり。妻に他の男性の影があると疑い、ティーンエージャーの子供達に会えずに寂しい思いをしている辛い立場にいます。
黒髪でスラブ系の顔立ち、フルシチョフの若かりし頃に似ていると主任検視医のパーゲル教授は言っています。


"トベラ・ムバイフェリ" 継子をガソリンスタンド強盗に殺されたKGBのために働いた過去のあるコーサ族の男
過去の経歴(高度な訓練を受けた軍人)を問題にされ、義理の息子の殺人事件で悔しい思いをします。脱走した犯人を追う一方、赤ん坊をレイプした男など児童虐待者への制裁に乗り出します。


"クリスティーン・ファン・ロイヤン" 3歳の娘がいる娼婦
胸の大きなブロンドの美女。
教会の牧師に子供時代からの身の上話を語り、中身の詰まった段ボール箱を持ち込みます。牧師は真実が語られているのか疑いながらも、親身にクリスティーンの話を聞きます。





この3人を柱にした物語がそれぞれ独立して語られていき、最後に大きく交差し、予想外の結末を迎えることになります。





依存症と格闘しながら、正当な裁きを受けない児童虐待者を死刑執行人のように次々と殺していく殺人事件の特別捜査隊の隊長となったグリーセル
唯一の手掛かりは、現在ではめったに使用されない武器"アセガイ"という150㎝ほどの接近戦で使用される槍でした。
犯人の人種さえ白人かカラードか黒人かも不明なままで、捜査は困難を極めます。
そんな中、カルロスというコロンビアの麻薬カルテルの男に3歳の娘をさらわれたという娼婦のクリスティーンが現れます。
幼児を誘拐したカルロスは、児童虐待者にピッタリと当てはまり、彼を餌にして犯人をおびき寄せる計画が立てられます。しかしカルロスは無残にも殺されてしまい、犯人を取り逃がしてしまったものの、逃走車両の拭き残された指紋からトベラが第一容疑者として浮かび上がってきます。

やっと捜査が進展しようとしていたその時、死神の異名を持ち、切り裂かれた喉から舌を引っ張り出す手口で有名な(←HANNIBALで使われたコロンビアン・ネクタイという殺し方)カルロスの兄ハビエルが復讐のため、グリーセルの娘カーラを誘拐してしまいます。

カーラを返して欲しければ、3日間でトベラを見つけ出して連れてこいとハビエルに脅されたグリーセルは無我夢中でトベラを拉致し、ハビエルとカーラのもとへと向かうのです。






1916年 若き日のフルシチョフ  
グリーセルはこんな感じのスラブ系男性  
1916. Khrushhev-s-zhenojj-efrosinejj.jpg
"1916. Khrushhev-s-zhenojj-efrosinejj" by Unknown - http://foto-history.livejournal.com/1686834.html http://www.moskva-put.net/attraction/kremlin/generalnye-sekretari-ck-kpss-v/nikita-sergeevich-hruschev/. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.





3人の物語はテンポよく操られ、最後の100ページからは猛ダッシュでお話が進んでいきます。
グリーセルの娘カーラにはとても辛い経験となるのですが、密告屋なのではと疑われている部下のケイターの意外なアルバイト、死んでしまったとされるトべラの行方、カルロスが誘拐したというクリスティーンの娘のことなど、十分に納得できるエンディングは特に面白くて何度も読み返してしまいました。


社会派ミステリーとされているのは、子供への虐待を取り上げているからでしょう。
この作品で起きた"赤ん坊へのレイプ事件"は、実際に頻繁に南アフリカで起きている問題です。
"赤ん坊と交わるとエイズが治る"という迷信のような思い込みから発する事件だそうです。(赤ん坊は生命力が高いためといわれています)。






お話の中で何度かシャーリーズ・セロンの名前が出てきます。
シャーリーズ・セロンは南アフリカ出身で、身長177㎝のブロンドの美女。
母語はアフリカーンス語。
作者のデオン・マイヤーは、クリスティーンのモデルとしてシャーリーズ・セロンをイメージしていたのだと思います。







トベラの出身であるコーサ(Xhosas)族の有名人は、ネルソン・マンデラ大統領。
1944年の結婚式での若きマンデラ大統領の顔はりりしくて、キリリとした感じです。
Mandela e Evelyn 1944.jpg
"Mandela e Evelyn 1944" by The original uploader was André Koehne at Portuguese Wikipedia - Transferred from pt.wikipedia to Commons by Truu.. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.






ズールー族 アサガイと思われる槍を持っています
日本なら日本刀を凶器として使用する感じでしょうか。
Zulu warrior.jpg
"Zulu warrior" by Patton, Cornelius H. (Cornelius Howard), 1860-1939 - New York Public Library [1], from The lure of Africa. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.



ケープタウン
Cape Town   Photo by Damlen du Tolt https://www.flickr.com/photos/coda/




テーブルマウンテンのペンギン
CAPE TOWN : Boulders Beach5
Penguin's beach at the Table Mountain National Park
Photo by Crystian Crug https://www.flickr.com/photos/crystiancruz/