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2014年11月27日木曜日

歴史ミステリー 『支配者』 ~SOVEREIGN チューダー王朝弁護士シャードレイク



新刊が出たとたん、内容も確認せずにすぐに買ってしまうシリーズがあります。

❝チューダー王朝弁護士シャードレイク❞ C.J. サンソム(Sansom)作のシリーズもそのひとつ。

Ⅰ チューダー王朝弁護士シャードレイク
Ⅱ 暗き炎   ~DARK FIRE
Ⅲ 支配者 ~SOVEREIGN

の3作が出ていて、今回は新刊の『支配者』を中心に語りたいと思います。


時代は1540年前後、イギリス(イングランド)を舞台にした歴史ミステリー。
薔薇戦争で疲弊したイギリスに成立したチューダー王朝のもと、農家の息子のマシュー・シャードレイクが主人公です。
シャードレイクは、ヘンリー8世の摂政かつ宗務長官であるトマス・クロムウェル(エセックス伯)の思想に賛同し、クロムウェルの庇護のもとリンカーン法曹院で働く弁護士ですが、脊柱後湾症という障碍を背負っています。
弁護士仲間や見知らぬ人々からも『亀背の御仁』だとからかわれることには慣れていますが、そのたびに心を痛めるナイーブなシャードレイク。鬱屈したものを秘めた、生真面目で芯の通った性格です。



1作目の『チューダー王朝弁護士シャードレイク』ではスカーンシアの修道院で起きた殺人事件の真相究明、2作目『暗き炎』では幻のギリシャ火薬を追え!と、クロムウェル↓から無理難題を押し付けられて、シャードレイクは困難な調査に乗り出します
当時のイギリスは陰謀と策略が渦巻く、諸行無常の世界。
(日本では室町時代の後期、戦国時代で、織田信長、豊臣秀吉が生まれています。)



トマス・クロムウェル (ホルバイン画)
宗教改革を断行、修道院を次々に解体。国中に行き場を失った元修道士や元修道女が溢れました。
ヘンリー8世とアン・ブーリン、アン・オブ・クレーブスとの結婚を推し進めた人。
Cromwell,Thomas(1EEssex)01.jpg
"Cromwell,Thomas(1EEssex)01" by Hans Holbein the Younger - The Frick Collection. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.





残念ながら、ホルバイン画の"レディ・アン"の肖像画に魅せられて彼女と結婚を決めたヘンリー8世は、実際のアンの"体臭のきつさ、英語を解さない"ことを嫌悪、クロムウェルの政敵であるノーフォーク公の姪である17歳のキャサリンに心を移し、クロムウェルは失脚、反逆罪で捕えられ、ギリシャ火薬についてのシャードレイクの調査が実を結んだにもかかわらず、『暗き炎』の最後で処刑されます。




第3作の『支配者』では、クロムウェル亡き後、政治的な人脈からは距離を置いていたシャードレイクのもとに、カンタベリー大主教のトマス・クランマー(元はケンブリッジ大学の教授)から声がかかり、ヘンリー8世の巡幸に伴う弁護士業務と、北部で捕われた謀反人のブロデリックを連行せよと命じられます。
助手のバラク(クロムウェルの臣下だったが、クロムウェル失脚後にシャードレイクの助手となった野性的な魅力ある男)とともにヨークに赴いたシャードレイクは、殺されたガラス職人の死に際の「国王は正当な王位継承者ではない」という言葉をきっかけに教皇派によって隠されていた重要書類を発見します。
しかし、何者かに襲われて書類は略奪されてしまいます。
国王のヘンリー8世に拝謁した際に、皆の面前で背中のことを嘲られ、国王への尊敬を失ってしまったシャードレイク。周囲のからかいや噂を思い、苦悩します。その上、バラクの女友達となった王妃キャサリンのもとで働くタマシンをきっかけに王妃キャサリンと密談しなければならなくなり、キャサリンの不貞に絡んでいるとされ、罠にかけられて密告され、ロンドン塔で拷問を受けることになってしまいます。





1542年のヘンリー8世  物語の頃です
Hans Holbein d. J. 048.jpg
"Hans Holbein d. J. 048" by After Hans Holbein the Younger - The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH.. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.





生きたままロンドンに連れて帰るはずだった謀反人ブロデリックは、復路の船上で何者かの助けを得て自殺してしまい、自分自身もロンドン塔に収監されて絶望するシャードレイクでしたが、バラクの必死の働きにより、大主教クランマーに事の詳細を報告することができて無事ロンドン塔から釈放されます。(拷問により、歯を1本失ったのですが・・・)




ロンドン塔 1547年(ヘンリー8世が亡くなった年)からは王族の住居として使用される。
エリザベス1世も滞在しました。
TheTower of London
Photo by Manolo Blanco https://www.flickr.com/photos/manoloblanco/



























ロンドン塔での過酷な試練を乗り越えたシャードレイクは、教皇派が隠し持っていた書類の略奪をしてブロデリックの自殺の幇助をした人物は、ヨークで知り合いになった老弁護士のレンヌであることをつきとめます。
レンヌを父親のように思い、信頼して慕っていたシャードレイクはショックに打ちひしがれて悲しみます。そんな彼にレンヌは教皇派に寝返らないかと熱心に誘うのですが、「国王は正規の国王ではない」との証拠の文書を世間に公開し、国王打倒を目的とするレンヌたち教皇派の誘いをシャードレイクはキッパリと断ります。
ヘンリー8世に嘲られて国王への尊敬を失っていたシャードレイクでしたが、イングランドを再び混乱させ、火と血の海に沈めることはならないと確信していたのです。



王妃キャサリンは姦通罪と反逆罪で告発され、処刑され、キャサリンの伯父であるノーフォーク公も失脚します。(ノーフォーク公はクロムウェル、シャードレイクと対立していました)。





2人の姪(アン・ブーリン、キャサリン・ハワード)を王妃に据えたノーフォーク公。
ホルバイン画
Thomas Howard, third Duke of Norfolk by Hans Holbein the Younger.jpg
"Thomas Howard, third Duke of Norfolk by Hans Holbein the Younger" by ハンス・ホルバイン - Royal Collection. Licensed under Public domain via ウィキメディア・コモンズ.






シャードレイクは鬱屈したものを抱えた複雑な人物。
周囲の反応や噂話などを気にする一方(かなり鬱々と考え込むタイプ)、国王に嘲られても私怨をはらして「国王打倒」なんて考えず、もっと高い視点から世の中を見ることのできる複雑な人なので、コリン・ファースがイメージされます。何か内側に抱え込んでいる風な様子が、コリンの風貌と一致します。
顔立ちは、『暗き炎』でレディ・オナーからも「あなたの顔立ちはどんな貴族にも劣らず立派よ」と言われているので、気品の感じられる顔ではないかと思っています。(しかし、レディ・オナーには「あなたの階級に身を落とせないの」とキッパリ振られます。女性には縁がありません)。



Corin Firth








クロムウェルの元臣下である助手のバラクは、下層階級出身ながらも修道院の付属学校でラテン語などを学んだ、女性にもてまくる野性的で胸の広い人。
貴族的な容貌ですが、美しさと複雑さを基準にすると若き日のルパート・エヴェレットが浮かびます。『アナザー・カントリー』や『St. Trinian's  セント・トリニアンズ女学院』(←では、女校長の役)などでコリン・ファースと共演しているので相性もいいはず。
バラクは女性の側から積極的に声をかけられるタイプ。残念ながら、現実のルパート・エヴェレットはゲイですが。



Rupert Everett   1998年







冷酷な仕打ちを受けても、信条を決して変えないシャードレイク。
お話の内容もさることながら、作者の卓越した表現力で16世紀のイギリスを身近に感じさせて、活き活きと当時の生活が描かれています。この時代から弁護士という職業が成り立っていて、(現実には偽証などの問題もあったようですが)、農民や下層階級の生まれでも学問を身に着けるシステムが活かされていたのも初めて知りました。



ケン・フォレットの『大聖堂』と同様の歴史を肌で感じられる小説です。
イギリスでは6作目まで出版されていますので、日本でも続編を早く出してもらえれば・・・と願っています。


☆☆☆
ヘンリー8世といえば、『The Tudors』 ~背徳の王冠~ が人気ですが、あくまでも"ヘンリー8世"はホルバイン画の"ヘンリー8世"をイメージしたいと思います。(ホルバインは、写実的な画家だそうです。あの時代の著名人は、皆ホルバインによって忠実に描かれているようです)。




セクシーなヘンリー8世は反則です
Photo by The Tudors Facebook