『容疑者』 ~SUSPECT by Robert Crais ロバート・クラリス
最近は北欧ミステリーが大流行りですが、アメリカだって面白いミステリーがたくさんあります!
マギーは黒と褐色のまじった被毛のジャーマン・シェパード、3歳、40㎏。
フルネームは"ミリタリー・ワーキング・ドッグ(MWD)マギーT415"
左の耳に〈T415〉という刺青あり。
まさに下↓の写真の通りのお仕事をしている軍用犬なのです。
Military Working Dogs Training in Baghdad, Iraq photo by Staff Sgt. James Selesnick
https://www.flickr.com/photos/dvids/
マギーのお顔はこんな感じ?
Rexo, the Brave Defender, the Military Working Dogs, MWD
photo by Beverly & Pack https://www.flickr.com/photos/walkadog/
マギーはアフガニスタン・イスラム共和国でハンドラーのピート・ギブス伍長とともに、哨戒および爆発物探知チームとして働いていましたが、Suicide Bombでピートは死亡し、マギーも重傷を負います。
一方、ロサンゼルス市警の巡査のスコット・ジェイムスは(なんとラーメン店を探している最中に)、相棒であり密かに恋心を抱いていたステファニーと激しい銃撃事件に巻き込まれ、自身は重傷を負い、ステファニーは亡くなってしまいます。
1人と一匹はともに怪我からは回復するものの、心の傷は癒えていません。
そんな中、スコットは上司から同情心を発揮されて半ば無理矢理にK9部隊に所属することとなります。(実は猫しか飼ったことがないのですが・・・)。扱いやすい犬をあてがわれそうになりますが、自分と同じ傷を負うマギーと出会い、ペアを組ませてもらいます。
相棒のピートのもとを決して離れなかったマギーに尊敬を抱いたスコット。
トラウマ(PTSD)を負ったペアは、少しずつお互いの距離を縮め、1人と一匹が苦手な拳銃の発射音も、建築現場でネイルガンの音を聞きながらランチを食べるという意外な方法で克服していき(拳銃の発射音に似ている)、強盗殺人課の刑事たちの捜査に食い込んで、ピートが負傷しステファニーが殺された未解決の銃撃事件の容疑者を、ごく小さな証拠物件の匂いをたよりに少しずつ追いつめていきます。
こんなペア?
photo by Kim Hill K9 Memorial Ceremony
この作者の卓越した表現力は凄いです。
実際にアフガニスタンで兵役についていたり、警察犬の指導を行っていたのかと思われるほどの描写力に驚かされますが、経歴を読むとWA生涯功労賞受賞者とあり、百戦錬磨であり、言葉の無駄づかいがなく、最小限の言葉で最大限になめらかに物語を紡いでいきます。
マギーやスコット、同僚や上司の視点を通してシンプルに語られていき、開始20ページ過ぎには早くも涙しそうになるはめに・・・!
ここでの犬はcompany。言うことを聞くだけのペットでも道具でもなく、仲間を保護し防御し、安全を守る存在で、決してcompanyのスコットを見捨てることはなく、人間には想像もつかないほど強い力で敵に立ち向かっていきます。
Amazon(Japan)では、「予定調和なところもあるが・・・」と評されていますが、たしかに犯人は意外な人物でもなく、どんでん返しがあるわけでもない。定石通りの癒されて立ち直っていく物語といえますが、読者だってそういつもTrick満載のサイコパス・スリラーばかり読んでいたら疲れてしまいます。
一服の清涼剤のようなプロフェショナルな警察犬と警官のお話が読みたくなるのです・・・。
K9のトレーニング
photo by Carl Wycoff K9 Training A Demonstration For DMPD K9 Officers
追記
犬のお話でお薦めは『牧羊犬シェップと困ったボス』 by Marjorie Quarton マージョリー・クォートン というお話があります。こちらはミステリーではありませんが、アイルランドの田舎町を舞台に、牧羊犬のシェップが競技会に出たり、怪しい男に誘拐されたりというアイルランドの田舎暮らしがシェップの日記として語られます。
こちらも創元推理文庫です。
ボーダーコリー(1歳)
"Buddy the border collie at one years old" by Jdriselvato - Own work. Licensed under Public domain via Wikimedia Commons.
お仕事中。
"BC eye" by C. MacMillan - Original Work. Licensed under CC BY 2.5 via Wikimedia Commons.